津次郎

映画の感想+ブログ

ねばりづよくたんたんと サンドラの週末 (2014年製作の映画)

4.0
サンドラは週末の二日と一晩を費やして同僚16人の一軒一軒を廻る。
その姿を淡々と追うのがこの映画のすべて。
フランス語の原題からして「二日と一晩」であり、二日と一晩をかけて、ひたすら「私の復職のためにボーナスを諦めてくれませんか」と16軒の家々に頼み込むサンドラを延々と見せられる。
すんなり「いいよ」と言ってくれる同僚もいるが、ほんの僅か。
たいてい拒絶されるし、説得すれば難渋するし、怒気に触れて罵られることもある、門前払いを食わされることもある。とうぜん留守宅もある。再訪しても未だ留守のこともある。同僚当人がいなくて要領を得ない家族に睨まれることもある。加えて一人一人に疎通の多少がある。よく知る同僚もいれば、ほとんど話さない同僚もいる。

そんな状況にめげずサンドラは根気をもって往訪→説得を繰り返す。あきらめない。依怙地にならず、自棄にもならず、ひたすら真摯に「私の復職のためにボーナスを諦めてくれませんか」を説いて廻る。

ひとかけらのエンターテインメント性もないのに、いつしかサンドラに全力で旗を振っている。いくら生活のためとはいえ、いったいどこの世の中に「私の復職のためにボーナスを諦めてくれませんか」などという言いにくい条件を携えながら不屈の庶民がいるだろう。そこには勇気が見える。腐りもせず卑屈にもならず相手を恨みもせず、どこまでもまじめに信念をつらぬく。

この映画を見たとき、ヨーロッパ=頽廃的に対する誤解を改めたばかりか、日本人が勤勉でまじめというのは本当なのだろうかと懐疑心を持った。勤勉でまじめな日本人などという前世紀の格付けに甘んじていていいのだろうか。それをかんがみるなら、アメリカ人が陽気でヨーロッパ人が頽廃で中国人が厚顔でオセアニア人がのん気でイギリス人が慇懃で……それらの無責任なレッテルに何の価値があるのだろう。つくづく人は、人種とは無縁だ、と思う。

午後8時の訪問者(2016)も状況が変わるものの同じ主題である。諦めない。信念をつらぬく。
あきらめないでまじめにやる──それがダルデンヌ兄弟の主人公。そうでない映画もつくっているが、あきらめないでまじめにやる、というテーマで魅せる映画をつくれる監督って他にいないんじゃなかろうか。