津次郎

映画の感想+ブログ

小粋なエドワードフォックス 遠すぎた橋 (1977年製作の映画)

遠すぎた橋 アルティメット・エディション [DVD]

4.0
昔テレビで見た。
映画スター総出演で、それが売りで、それが趣旨でもあった。
すなわち、反戦や無謀な作戦の愚かしさを啓発する意図はあったとはいえ、スターを見ることに比重が置かれていて、ペーソスを云々する映画ではなかった──と思う。

監督はリチャードアッテンボロー。
大脱走でビックXといういかつい通称ながらあまり目立たない良識人の少佐を演じていた。
ナイトをもつイギリスの映画監督だが、正直なところリチャードアッテンボローの映画には固有性はなく、総じてプロデューサータイプの映画監督だった。
しかしそれはそれでいい。かれにはスターと予算を集約できる人望があった。

遠すぎた橋は、巷でみるオールスターの冠がぜんぜんオールスターになっていないことがわかる本物のオールスターだった。
ショーンコネリー、ジーンハックマン、ロバートレッドフォード、ローレンスオリヴィエ、マイケルケイン、アンソニーホプキンス、ダークボガード、ライアンオニール、エリオットグールド、ジェームズカーン、マクシミリアンシェル、デンホルムエリオット……。

おおぜいのスターを見せる映画ゆえに、それぞれに踏み込んだ描写はなかった。
それでも、エドワードフォックスが演じたホロックス中将に惹かれた。

豪放磊落。死ににゆく兵卒の気分をまったく理解していないのにエドワードフォックスはいい奴だった。馬鹿な上司なのにぜんぜん憎めなかった。厚顔だが明朗快活で闇がないのである。

ロバートデュバルのキルゴア中佐(地獄の黙示録)はベトナムでサーフィンをしたけれど、その厚顔とは違う、歪みのない、どこまでも理想主義の戦争屋、それがホロックス中将だった。

それをほんの数分の登場時間で体現してみせたのがエドワードフォックスだった。
とりわけ地上部隊の下士官たちにマーケットガーデン作戦の骨子を説明する集会のシーン。

ホロックスは下士官の拍手に迎えられ壇上に上がる。そこには大写しにしたベルギーとオランダの地図。
徒兵と車上兵と降下部隊のみで、ベルギーからオランダのアイントホーフェン→Veghel→Grave→ナイメーヘン→アーネム。約120キロの一本道に架かる五つの橋を占領し、ライン川にかかるドイツ国境に橋頭堡を仕掛けるのが最終目的だった。しかもそれは全行程がbehind the enemy lineだった。

彼はほとんどキューに見える長い指示棒をもって言う。
Gentlemen, this is a story that you shall tell your grandchildren, and mightily bored they’ll be.
『ジェントルマン!これは君らが孫に語れる大作戦だ!まあ退屈されるがね!』

ホロックス中将はじっさいに戦うひとびとの心配をまったく気にしない。みごとなまでの体制派司令官で作戦につゆほどの疑いも持ち合わせていなかった。
The plan is called “Operation Market Garden”. “Market” is the airborne element, and “Garden”, the ground forces. That’s us.
『名付けて「マーケットガーデン作戦」。マーケットは空挺部隊。ガーデンは俺たち地上部隊だ』

Speed is the vital factor.
『もっとも重要なのがスピードだ』

ホロックス中将は作戦行程を説明し、先頭にバンドルール少佐を指名する。
指名されたバンドルール(マイケルケイン)は隣席に小言。「けっ。また俺らかよ」
「なんか言ったかい?」とホロックス中将。

Delighted, sir, truly delighted.
『光栄ですマジでうれしいっす』

この集会のエドワードフォックスとマイケルケインのやりとりを、よく憶えている。

ホロックス中将は人を疑わない。
美男だが小柄、でもなんとなくおしゃれ。たたずまいがデイヴィッドボウイによく似ていて、不思議な存在感がある。かつ単純で明朗で、竹を割ったように世の中を理解し、プラス、イギリス人のユーモアを携えていた。

で、そのときからずっと、好きな俳優がエドワードフォックスになった。
多少ざんねんなのは、この映画にちょっとだけ出てくるホロックスのエドワードフォックスがいちばんいいことだ。