津次郎

映画の感想+ブログ

実写化のジレンマを払拭 シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション (2018年製作の映画)

3.4
漫画もアニメもとくに見ていません。
ただ有名な漫画/アニメでしたので、絵や世界観ていどは知っています。サザエさんを、とくに見ない人が、サザエさんがどんな話かについて、だいたい想像が付くのと同じです。
このばあい、漫画/アニメの愛好者に対しては、その執心に顧慮して、ぜんぜん知らないと断らなければいけない気がしますが、日本の一般的な生活圏のなかにいるばあい、サザエさんやアンパンマンやドラえもんやちびまる子ちゃんについて、──たとえ、それを意識的に見ていなかったとしても、ぜんぜん知らないと言ってしまうのも、やや、おかしな話です。

つまり、もし熱狂的なファンと対峙しているのでなければ、知っています──と答えることも可能なはずです。
漫画/アニメの実写化のレビューに際して、毎度、原作体験の有無について、前置きしたうえで、レビューすることが多いので、とりあえず、そのジレンマを、前置きしました。

すでに長い歴史を持つ漫画だと思います。生まれてほぼ半世紀経っているわたしが中か高の時代に既にありました。

その当時、絵柄からまず感じたのは八頭身です。日本人離れした体躯を持った日本人の活躍、外国人女性のようなセクシーな肢体が売りだったはずです。今までにないほど、きれいな美男美女が描かれたフレッシュな漫画でした。

時代は変遷し、現代のなかで、どう捉えられているかは、知りませんが、まず、こうした体型を持っている日本人は、多くはないでしょう。
個人的には、日本人のコンプレックスを反映/反転させた絵柄だと認識しています。

となると、必然的に、これを実写にしたばあいには、ファンの反駁を予想しなければなりません。
しかし往往にして、それは阿漕な要求です。
ましてシティハンターに見合う俳優などと言ったら、わたしたちは、日本人の体型について、もう一度、じぶんのコンプレックスと対峙しなければならなく──なるやもしれません。

ですから、そこはイメージで補完してください、というのが、実写化に際しての、製作側の気持ちであろうかと思います。
ただし、まいど実写化の風物詩たる漫画/アニメファンの悲鳴を、すこし冷静に検証してみると、製作側も阿漕なことに気づきます。

漫画/アニメファンの、必要にして最小限の訴求要項は「せめて絵面と合わせてくれませんか」ということです。そこだけでもクリアしておけば悲鳴もむせび泣きくらいに抑えることができるわけです。

ところが、絵にあやかった俳優が選ばれる──たったそれだけのことが、ぜんぜん無視されます。たんなる業界内の政治バランスか、事務所の押しか、当人の強い希望によって、役者が充てられてしまいます。ひじょうに不誠実なのです。

この映画のPhilippe LacheauやÉlodie Fontanが、絵を反映しているかどうか、それは各々の見え方に委ねるとしても、Nicky Larson et le Parfum de Cupidonは、漫画/アニメの実写化に不誠実な対応をする日本の映画製作のしがらみから、完全解放されている──とは言えます。
たとえ似ていなかったとしても、北条司の事実上のファンであるPhilippe Lacheauが、誠実に対応した実写映画です。それが、まず、国内の実写化とは540°違います。

加えて、外国人であることで、北条司の絵のもっとも大きなエレメントである八頭身が、半ばクリアされます。
足りないとこが足り、出るべきとこが出た男女が演じ、外国人の翻案によって、日本の無残なキャスティングと、造詣のないキャラクタライズが回避されているのです。

そこには、冴羽りょうを上川隆也が演じることを知ったときの「え、なんで?」がなく、どう逆立ちしても冴羽りょうに見えない彼を乗り越えるという、漫画/アニメの映像化で日本人が必ず乗り越えなければならない障壁がありません。

さらに漫画/アニメファンは、外国映画ゆえに、謂わば別物であることを認識します。これはあっちの人たちが作った映画だから──の認識によって、呑み込みが別腹になり、たとえ、解釈に齟齬が生じているとしても、先鋭的な怒りには至らない効果も併せ持っているわけです。

すなわちこの映画は、その意図なしに、日本の漫画/アニメの実写化が必ず抱えてしまう遺恨と、それに対するわたしたちの諦観を、さらりと乗り越えている。──と言えます。それが日本国内の異例の高評価の理由でもあります。実写化の不誠実さに対する怒りが、この映画の点を、どこの国内サイトでも、軒並み名画レベルに押し上げているのです。

明るい映画です。快晴で、美しく広々としたロケーション。キャラクターのことは知りませんが、わたしたちが望んでも得られない街並みが拡がっていました。