津次郎

映画の感想+ブログ

中井貴一がかっこいい 嘘八百 (2017年製作の映画)

嘘八百

3.4
さくっと撮っている。さくっと撮りすぎている。いずれも撮り直した気配がない。構図もざくっと切っている。ロケーションも凝っておらず、予算もかけていない。持ち味、であることは解るが、早撮りが躍動/リアリティ/生彩等々につながっていると確信できない。もうすこしデジタルでもいいような気がする。

むかしの日本人は「ものの価値を知る」ことに身上を擦っていた。旦那衆はお金をつかってしっかり遊ばないと馬鹿にされた。時代は変わった。
狭い安アパートに陶芸の設備が一式揃っている。大層な窯や、ろくろや、甚平を着た職人を想像していたが、そんなものはひとつも出てこない。この日本で、陶芸を有り難がり、その価値を知り、それが取引される世界は狭い。オークションをするのは、どこかの倉庫である。目利きとて事実上、車中泊の蜩である。
しかし真贋とは一夜漬けではどうにもならない世界である。かれらは途方もない風流人でありながら、現代社会では変人であり落ちこぼれでもある。
だから詐取とはいえ、知的マイノリティの渡り合いである。
主知的であり、DQNがなんとか詐欺をはたらくより遙かに楽しい。
その脚本は冷静で面白い。

が、プロダクトのレベルに役者が噛み合っていない。ざっくり撮った映画にしては中井貴一がかっこよすぎる。老齢のわたしの父──俳優を滅多に褒めない父も中井貴一をかっこいいと評した。黒のタートルネックに黒の一張羅、無精手前の口顎髭、ブリッジで分離する首掛け老眼鏡、こんなスタイリッシュな骨董屋はどこにもいない。
加えて助演陣が味わい深い。近藤正臣、木下ほうか、前野朋哉、宇野祥平。塚地武雅は間宮兄弟を思わせた。
父はスティングみたいだったとロートルらしい感想を述べたが、観衆が騙される仕掛けはなく、群像の活写に重心がくる。
この脚本なら、この布陣なら、もっと大資本を充ててほしかった。
と、思ったらもう続編が封切られていた。