津次郎

映画の感想+ブログ

ガンドルフィーニの遺作 クライム・ヒート (2014年製作の映画)

5.0
映画を見ていると、登場人物の行動又は言動と、自分の願望や理想や希望的観測との間に差を感じることが、あります。

それが重なると、差がどんどん開いていきます。
開きすぎると、鑑賞をやめることもあります。

あまり差が開かないのが好きな映画だと思います。
差が開いても、展開によって、収拾してくれる場合もあり、それも好きな映画です。

The Dropはその差を全く感じない映画でした。
過剰描写がなく、かといって矮小描写もなく、100分ずっと納得がいく、珍しい体験でした。

主演はトムハーディとノオミラパス。ハーディが演じるのはCousinMarv'sBarで店主のマーフ(ジェームズガンドルフィーニ)に雇われているバーテンのボブです。
マーフもボブも末端ですが組織構成員です。

表向きバーですがモブ組織の金庫でもあり、マーフとボブは金庫番のような役割を担っています。毎夜、汚い金がDropされるバーというわけ。

ボブは危ないことには首をつっこまず、目立たないように生きています。敬虔なクリスチャンで、優しく純情ですが、周囲に足りない奴と思わせているような賢さがあります。滅多にいないキャラクターでした。

ラパスはDV男から逃避する薄幸女ナディア。男に強い警戒心。
ボブとは捨て犬を介して知り合い、なんとなくいい関係になりますが、粘着質のDV男エリックに見つかり復縁を強要されます。
ボブはエリックを射殺して、ナディアを助けますが、恋愛は描かず、あっさり収束します。

マーフは組織の金の横領を画策して、結局消されてしまう役で、生活に疲弊した中年を演じ存在感をしめします。巨で漢なガンドルフィーニの遺作でした。

ボブは一連の修羅場を切り抜けましたが、賢く立ち回ったので、誰にも疑われずマーフに代わってCousinMarv'sBarを継ぐことになります。

マーフやボブの周りを嗅ぎ回ってきた刑事のセリフ。
No one ever sees you coming, do they Bob?
「誰も君を疑わない、だろ?ボブ」
刑事は同じクリスチャンとして、世のクズを一匹始末してくれたボブを赦した、ということなのかもしれません。
よく見かけるバイプレーヤーJohn Ortizが演じていました。ホントにうまい人だと思います。

ストイックという言葉の解説見本のようなストイックな映画で、誰ひとりヒートしませんからクライムヒートという邦題はペケだと思います。