津次郎

映画の感想+ブログ

小品にして傑作 エイプリルの七面鳥 (2003年製作の映画)

5.0
映画の思い出を入れておく引出しには忘れない小品の一区画がある。
こんにち、そのてを繰り出してくる、もっとも信用のおける機構となっているのがサンダンス映画祭だと思う。SearchingやTullyやエイスグレードetcに、大作に負けない良心を見る。そういう小品は、まるで自分だけが知っている宝物のような輝きをもってしまう──ことがある。忘れない小品とはそういう映画たち、だと思う。

これもサンダンスで大ウケして世に知られた。
トムクルーズとつきあっていた頃は、主流を走る女優のような気がしていたが、芳年を過ぎると、なんとなく中堅どころには至らなかった感のあるケイティホームズ。Pieces of April以降の彼女を見た記憶がない。が、これはよかった。これさえあれば何もいらない。彼女の持ち味をぜんぶ引き出した「小品」だった──と思う。

街へ出ている娘を家族が訪ねてくる話。
都会で暮らす若者に言えることだが、そこには故郷や家族とは、相容れない世界がある。殺伐としてギラギラした生活があり、自分はそれに埋没している。それは牧歌的な郷土とは価値観のちがう世界だ──と、わたしも若い頃思っていた。じっさい、その通りでもある。

が、エイプリルは都市生活に身をやつしたとはいえ、繊細な気持ちも持っている。一人前にやっているんだってところを、家族に見せたい。サンクスギビングの来訪にあわせて七面鳥のローストを、つくる──つくろうとする。

この粗雑さと繊細さをあわせもったエイプリルが、たくみに描かれている。
ときに、ずぼらに見える。ときに、心優しさがあらわれる。

さりげなく派手、どことなくワイルド、な女性がいる──と思う。
普段姿になると、なにげに鼻ピアスしていたり、囲み目していたり、チョーカー着けていたり、露天商で買ったみたいな手作り感の革製のアクセサリーをあっちこっちに着けていたり・・・てらいもなく派手なノースリーブで、その露わにも臆したところがない。そんな女性がいる。

エイプリルもそんな感じ。なんか蓮っ葉な印象もある。でも根はまじめ。その可変でファンキーな女性像が、くっきりとしたキャラクターになっている。とても魅力的だった。

家族は、それぞれが困惑を抱えている。お互いに打ち解け合って、さえいない。だけど、最後はすったもんだを乗り越えて無上の大団円ができあがる。都会と田舎の違い、人種の違い、所得の違い、年齢や性情の違いも超えて、みんなでサンクスギビングを祝う。

監督のPeter Hedgesを調べたらヒューグラントのAbout a Boy(2002)を書いていた。たしかにあの映画のほっこり感はこれと一致する。なんかみょうに納得した。