津次郎

映画の感想+ブログ

よしわかった 犬神家の一族 (1976年製作の映画)

犬神家の一族(1976)

5.0
何度かリメイク・リテイクされているが、これは金字塔だった。
原体験にこれがあると、ほかの横溝作品も、石坂浩二でない金田一も、みんな類似品のように感じてしまうのである。

市川崑監督は、晩年まで精力的な監督だったが、最盛期は50~60年代だったのだろうと思う。後年には、枯淡な和空間を撮る監督になっていた。

だから1976年のこれは、いわば壮年から老成期への変わり目に撮られた。──と思う。
個人的には市川崑といえばビルマの竪琴やおとうとや東京オリンピックではなく、吾輩は猫であるやこの映画が印象深い。

横溝正史作品の映画中のもっともすぐれたエンターテインメントであることに加えて、忘れ得ない人物像があった。

昭和世代で、橘警察署長(加藤武)の「よし、わかった」を知らない人はいない。わたしの老齢の父はいまだに、右手をチョップにして左手平をパチンと叩き「よし、わかった」と言うことがある。正式には、手指をしっかり伸ばした右チョップを、進行方向を示すように大ぶりに、ずいっと前方へ出す。もちろん、これはなにひとつわかっていない時でもやっていい。わたしも、細かすぎて伝わらない物まねのように、若いアルバイトの前で「よし、わかった」とやることがある。どう思われているかは知らない。

もう一人。
ホテルとは名ばかりの湖畔の旅館「那須ホテル」の女中として坂口良子が出てくる。
これ以上ないほどのはまり役だった。明るくて大らかでぶっきらぼうで──どうしようもない魅力にあふれていた。彼女はこの女中役──わずかな登場回/時間で、不動のポストを得た。他作品で、誰が演ってもこの坂口良子にはかなわなかった。

もしドラマで、それがなんのドラマであれ、ぶっきらぼうで、たいがいに失礼だけれど、すこしも憎めないかわいい若い女が設定されているなら、それは巡り巡って那須ホテルの女中はるさんから来ているはずである。彼女はキャラクターの原型を創造したのだった。
業界が御息女に甘いのは、だれもがその坂口良子を記憶しているからだ。──と思う。