津次郎

映画の感想+ブログ

楽しいホリデーコメディ ラスト・クリスマス (2019年製作の映画)

ラスト・クリスマス (字幕版)

5.0
まもなく12月になる。
またジングルベルかジョージマイケルか山下達郎をまいにち聴くにちがいない。

『ハリウッド・ブールヴァードの商店街はすでに高い値につけかえたクリスマスのがらくたをならべていたし、毎日の新聞はクリスマスの買物を早くすませないと混雑すると叫びつづけていた。どうせ混雑するのだ。毎年、おなじことなのだ。』
(レイモンド・チャンドラー作清水俊二訳「長いお別れ」より)

各種ネット配信にも、じわじわとそんなコンテンツがふえてくる。
わたしはすかんぴんだけどオンラインストーリーミングサービスは、禍でボロもうけだろうなあ。なんて思うきょうこのごろ。

ポールフェイグ監督で、エミリアクラーク。エマトンプソンもいる。トンプソンは出演兼ライター&スクリプターでもある。
ちゃんとした安くないクリスマス映画だった。

シンガーを夢見ながら、人生の階梯を転げ落ちている主人公。
唯一のラゲッジにはジョージマイケル命のステッカー。
緑のエルフ靴は靴カバーだった。
ほとんど一張羅の豹柄をずっと着ている。
ジリ貧だけど、楽しそうだ。

パッと笑った、かと思ったら、すぐ困って、こいい眉がかんぜんに「八」をえがく。
「表情豊か」の好見本で、明朗快活で、生気に溢れている。
いいひとにちがいない──と内面をも直覚させる。
エミリアクラークみるたび思う。

内紛つづきの旧ユーゴからきた難民一家。教会にあつまるホームレス。幻影の友人。たのしくて、情緒ゆたかで、ぴりりと辛みもあって、ほろりくる筋書き。いちどは仲違いした家族・友人とも和解し、ラストは大団円のクリスマスコンサート。

『生きてることは幸運です。助けあえることは幸運です。幸運なのは、助けあっているからで、それでみんなが幸せになれるからです。』と前口上して、みんなでラストクリスマスを合唱する。

惹かれあうけれど、恋愛とまでいかない。恋愛へ傾倒しないことが、映画をすっきりさせている。
良心的で博愛で健全。いい映画だと思う。ひとつも文句がない。
であるなら、クリスマス映画であることが、評価値をスポイルするってのも業腹である。

ことしは身も心も懐も寒いクリスマスになるだろうし、そもそも12月もクリスマスもきらいだが、クリスマス映画は好きだ。

まいとし、クリスマスに染まっていく街並みや電飾に「けっ」とか思いながら、家じゃクリスマス映画を見ている。──わけである。