津次郎

映画の感想+ブログ

愛しい人から最後の手紙(2021年製作の映画)

愛しい人から最後の手紙

3.4
むかしと現代を行き来する映画で、60sでは上流階級をえがく必要上wardrobeや様式へのつよいこだわりが感じられた。それに比べて現代はざっくりと普通っぽい。

さいしょからキャスティングが気になった。60sは事故に遭った貞淑で金持ちの妻のパート──だがウッドリーってアメリカ人ではなかっただろうか。スペキュタキュラーナウから知っているけれどアメリカンな印象のあるウッドリーが淑やかなイギリスの細君なのは、みょうな感じがした。

くわえて現代のパートをジョーンズが演じるのだが、行きずりの男の部屋で目覚めて、コーヒーを片手に出勤する──米映画のはじまりで、なんとなく見たことがある気がしたが、フェリシティ(←いい名前だよね)ジョーンズってイギリス人ではなかっただろうか。ゆえにキャスティングが逆さになっている気配はあった。が、頭のなかで入れ替えても、しっくり来なかった。

ジョーンズが演じる現代パートは、失恋の痛手の渦中にある──とはいえ、スラッティで、活発な現代的女性。
ウッドリーは上流階級かつ貞淑な皮相とはうらはらに、欲求不満があり、他の男とはげしい愛欲に陥る。──昔の女。
ふたりとも巧い女優なので、役に嵌まるものの、違和感は残った。──とはいえ、ウッドリーには清純派の印象があり、ジョーンズには知性派の印象があるゆえ、入れ替えても違う感じはした。

ベタな春情が描かれる60sパートより、総じて陽気な現代パートのほうがいい。頭のいい軽くないジョーンズが、蓮っ葉で軽めの女を演じている気配は楽しかった。さらに現代パートでジョーンズと番いになるNabhaan Rizwanという男優がとてもいい。朴訥な感じが巧かった。

60sはかなりこだわって撮っていた。つけまつげに爪楊枝が載せられそうなメイキャップだった。前述したようにウッドリーはアメリカンな印象があるひとなので、キャスティングは微妙な風合いを狙ったもの──だったのかもしれない。が、ウッドリーのパートは終始微妙だった。率直に言って、wardrobeからメイクから、やたらこだわって撮っているのに、なんでアメリカ人を持ってくるの──の感が拭えなかった。

が、古い叶わなかった恋愛が熱心な記者の介添えで復活するストーリーには心躍るものがあった。筋書き上の遺恨も、配役上の違和も忘れさせる幸福なラストだった。
久々に古い俳優ベンクロスを見た途端、あたまのなかでヴァンゲリスが鳴った。おれも古いにんげんだよな。