津次郎

映画の感想+ブログ

どこまでも固執する女 セイント・モード/狂信 (2019年製作の映画)

セイント・モード/狂信

3.5
物語を創作するばあい、日常を書いても、おもしろくないので劇的にする。
劇的にすると、日常性が失われるので、ホラーってことにする。
だから映画作家のキャリアスタートがホラーなのは理にかなっている。

ホラーにくふうを凝らすことで、アスターやワネルやピールやデヴィッドロバートミッチェル・・・そして本作も、脚光をあびた──わけ。である。
くふうを凝らす際、キャラクターにじぶんや、じぶんの見知っているにんげんを投影する。それが、映画の味わいを深める。

がんらい、作家はホラーではなく、キャラクターにじぶんや、じぶんの見知っているにんげんを投影したドラマを描きたい。ところがそれじゃ他人様が見ておもしろくないし、じぶんのキャリアはまだ確立していないからホラーにした──わけである。

ちなみに、映画づくりの素養が不確定にもかかわらず、作家活動の初っぱなから、キャラクターにじぶんや、じぶんの見知っているにんげんを投影したドラマをつくってしまうのが日本映画。

映画づくりをべんきょうしてホラーからはじめることをおすすめしたい──がシライサンの監督みたいに他分野で著名だと「栄誉監督」ができちゃう日本ならではのシステムもあるし、最初から大作を任される七光りパターンもある。日本映画界にはよくもわるくもセオリーがない。

Rose Glassという女性監督の長編デビュー作。本作のまえはショートフィルムもしくはオムニバスのセグメントしかない。Rose Glassでけんさくするとロゼワインのはいっているワイングラスの画像がいっぱいでてくる。w。

海辺の街。信心深い女性モード。失態をして病院をくびになり、住み込みの看護人になる。ロングアイランドのようなおもむきのある街だが、イギリスらしく陽光感はまったくない。看護するのは女性舞踏家アマンダ。華やかな交遊とキャリアだったがリンパ腫で残暦わずか。モードはアマンダに取り入ろうとするものの激しい自意識によってふたたび失職する。
孤独で、思い込みがはげしいモードは、しだいに現実と非現実が見境なくなっていく・・・。

篤信が狂気に変わっていく孤独な女。かのじょがどれほど孤独か──気が滅入るほど巧く描かれている。そして、ほんとに怖かった。
なによりRose Glass監督の特異な持ち味が表出していた。ちなみに「特異な持ち味が表出」は、映画監督になろうとするひとの必要条件。

世評の高い新進の外国映画を見ると、つくり手の動機がよくわかる。なぜ映画をつくりたいのか、どんな映画をつくりたいのかが──とてもよくわかる。
(外国褒めに寄せて、いちいち牽強付会なディス日本映画をさせてもらっているが)新進の日本映画を見ても、動機がわからない。