津次郎

映画の感想+ブログ

ラストナイト・イン・ソーホー(2021年製作の映画)

3.5
じゅうぶんに楽しませる映画でしたが、エドガーライトならもっといけた気がします。というか、私見にすぎませんが、エドガーライトとしては凡作だとおもいます。ところがトーマシンマッケンジーとアニャテイラージョイ。ふたりが映画の水準を青天井に上げている──という印象をうけました。どっちかひとりでも贅沢な、いまもっとも旬な、とうだいきっての、ふたりだと思います。

映画はファンタジーに落としたいのか、サスペンスに落としたいのか、曖昧でした。テレンススタンプが演じた老翁やいじめっ子たちの存在も、不統一な感じがしました。

エリーが夢・幻影を見ている大部分はファンタジーが支配しています。華やかで謎めいていて、ぜんぜん別のところへ落ちるような気がしていました。
とりわけ序盤の楽しさ・なにがおこるのかわくわく感はすごいものでした。それが、わりとふつうなサイコサスペンスへ落ちてしまいます。
夜ごとcafe de parisに行ってサンディの分身となる夢・幻影がキラキラ描かれているので、てっきり、ミュージカルになるような気さえしていました。

とはいえ、いい映画でした。

トーマシンマッケンジーがみりょくを発揮していました。まっしろな肌、大きな目、小さな顔にバランスのいいパーツ、丸顔で童顔、ハスキーな声、痩身だけどグラマー。ジョジョのときも思いましたが学園もの等でふつうの人を演じているところが見たいです。

この映画は(かんたんに言うなら)田舎の夢見がちな女の子が、はじめての都会生活に疲弊し、その弱った心に、下宿にいた霊たちが取り憑いた──という話、だと思います。おそらくホラーにジャンルされると思いますが、まるでそんな気配がないのは、さすがエドガーライトでした。

『本作は、ニコラス・ローグ監督の『赤い影』やロマン・ポランスキー監督の『反撥』など、他のイギリスのホラー映画からインスピレーションを受けていると言われており、ライトは本作がタイムトラベルを使用していることにも言及している。』
ウィキペディア:ラストナイト・イン・ソーホーより)

こじんてきな印象では紅い影とも反撥ともちがいましたが、それらがインスピレーションとなったというこの解説にはおおいに納得しました。
また、テレンススタンプやダイアナリグ、Rita Tushingham、Margaret Nolanら、往年の老俳優が、わりとはっきりした役どころで出ていますが、過ぎ去った60年代を描くためであり、演者たちの老若は過去と現在を対比していました。エドガーライトが言うタイムトラベルとはその(過去と現在を行き来する)ことだと思います。