津次郎

映画の感想+ブログ

え?ハインラインの?マジで? 夏への扉 ―キミのいる未来へ― (2021年製作の映画)

夏への扉―キミのいる未来へ―

1.0
ハインラインの夏への扉を愛読していました。
わたしだけ。──なわけがありません。
せかいじゅうで、多少でもSFをかじったことがあるひとなら、これがどれほどの名著か、くちを酸っぱくして語るにちがいありません。

もちろんこんにちでは、古典のようなポジションになっているでしょうし、わたしも今はSFの熱心な読者とは言えませんが、かつて(昭和や平成時代に)好きなSFベスト集計──のようなコンペティションがあったばあい夏への扉が入ってないことはありませんでした。

夏への扉のみりょくはひとえに生き生きとした登場人物の描写です。コールドスリープやタイムトラベルが狂言回しになっていますが小難しい話はいっさいありません。血湧き肉躍る冒険と恋愛の物語です。お読みになれば世界中のSFファンがこの作品を愛していることは自明です。

したがって夏への扉の映画化にたいして、思ったのは「かくごはできてんだろうな」しかありませんでした。

まだこれが「クリストファーノーランが挑んだハインライン」──とかだったらぜんぜん解ります。ところが日本映画です。山崎賢人とか出ちゃってます。

わたしはコアな漫画ファンが映画化のたびに「原作とちげーだろ」と紛糾する現象を、傍目で嘲笑しているタイプのヤな奴です。しかし夏への扉の映画化となりゃ、わたしだって「原作とちげーだろ」と絶叫するかもしれません。

つまり見るに際して「かくごはできてんだろうな」しかなかったわけです。

まず夏への扉に愁嘆場はありません。会社乗っ取られた辺りから要所要所泣きが入りますが、これは日本映画ならではの予定調和であり、2021年の映画だそうですが、1957年刊の小説、夏への扉には、そのてのお涙ちょうだい描写はありません。ダンは陽気な男で相棒ピートと軽妙に会話しながら難局を切り抜けます。いちども嘆き悲しんだりしません。

もっと根本的なことですがダンは三枚目です。(私見ですが)イメージは未来世紀ブラジルの頃のジョナサンプライス。日本なら濱田岳とか伊藤淳史とかの感じです。なにかにつけ日本映画は山崎賢人推しですが(個人的に)この無味無臭な役者のみりょくがわかりません。
いっぱんにハンサムだって、なんらかの風合いを持った人が役者やるわけであって、たとえば外国人俳優が居並ぶプレミアで、このひとが写った写真に「おいきみ客席もどりなさい」って言いたくなるのは、おそらくお解りいただけるでしょう。よくもわるくもゲーセン巡回してるお兄さんなのであって映画的なダイナミズムがまるでない──と個人的に思っています。

また、映画で人間をつかって──わたしはロボット/サイボーグ/ヒューマノイドです、は、やってはダメだと思います。その設定上で人間がロボット的な動きをするのは(ものすごく)白けます。そもそも藤木直人の演じた(ヒューマノイドだかの)キャラクターは原作には存在しません。だいたいなんで藤木直人?山崎賢人と双璧の謎キャスティングでした。

個人的な歯ぎしりは置いてもダンはどこまでも陽気でユーモアのある男でした。ハインラインの、あの浮き浮きするような雰囲気は日本映画に望むべくもないことなのはわかっていましたが、逐一じめじめとしたエモーショナルに落とすのが(いつもながら)嫌でした。

原作はブツ切りかつ改変されていました。が、限られた予算でつくられた映画──なのはひしひしと伝わってきました。それゆえ無碍な批判は酷でしょうが、どだい夏への扉なんてムリな話です。映画化不可能を確認させてくれた映画化でした。