津次郎

映画の感想+ブログ

幸せのちから(2006年製作の映画)

4.5
第94回アカデミー賞(2022/03/27)でクリスロックに妻を揶揄されたウィルスミスが登壇してロックをなぐった。めずらしい画だった。異国のスターの出来事だが、なぜかとてもドキドキした。

その時事に寄せて、この映画のレビューをしているのだが、ウィルスミスはドラマチックなひとだ。
映画のなかのかれが、殴って/授賞して/泣いた現実のウィルスミスに重なってしまった。
それが言いたかった。

Seven PoundsやCollateral Beautyもドラマチック=劇的だった。おそらくKing Richardのスミスもドラマチックにちがいないが、とくにこの映画の逆境に耐える気配のウィルスミスをまんまあの授賞式に見た、のだった。

殴打事件はまだ進行中で沙汰止みの気配はない。日本でも日本的順序で変遷している。スミス氏ロック氏を殴る。→スミスかっけえと称揚される。→海外はロック擁護。→日本人軌道修正。→暴力ダメ絶対。←今ココ。

初期段階で吐いてしまった意見を世論や「外国様」の影響力で引き戻すことは日本/日本人ではよくあることではなかろうか。
当初日本人の意見で多数派だったのは「かっこいい」とのコメント。映画レビューに並ぶ「めちゃくちゃおもしろかった」のようにウィルスミスは「めちゃくちゃかっこよかった」と評された。
そのあと意識高い系の「海外は逆(ロック擁護)なんだよね」との報告が入って日本人はすこし納めて「やっぱ暴力はダメだろ」に転換した。

今後どうなるだろう。個人的にはスミスが責められてほしくない。この事件はスミスが負うひつようのない不遇を負ってしまった事件だった。病の妻をけなされたら、なんらかのアクションを起こさざるをえない。なんにもしないという選択がなかった。なにもしなかったら良心の呵責にさいなまれる。妻とぎくしゃくしてしまうかもしれなかった。脱毛症がGI言われるのって盲が座頭市言われるのとおなじ。海外ではロックのひるまなかったプロ根性が褒められているわけだけどインサルトジョークで相手を本気で怒らせてしまうのはプロじゃない。言われなくてもいいことを言われ、する必要のないことをした──スミスにたいする同情をきんじえない事件だった。

その試練の気配がこの映画のスミスに重なる。あれやこれやの厄災がふりかかってくるのを堪え忍んでついに社員に選ばれる。なぐって怒ったところから授賞して泣いたところがもろにかぶった。のだった。が、沙汰はまだ続きそうだがスミスと夫人に心の平安あれと思う。