津次郎

映画の感想+ブログ

センスのいい悪趣味 アンテベラム (2020年製作の映画)

アンテベラム(字幕版)

5.0
白人至上主義かつ南軍マニアが奴隷制度を現代に再現し黒人を誘拐してプランテーションでこきつかう──という話。

社会派な内容なのにめくるめく興奮のホラー/スリラーになっている。この映画の妙味を表現できるとは思わないがいちおうレビューしてみる。

映画は19世紀(南北戦争のころ)の気配ではじまり、てっきりそんなつもりで見ていると、ちがうのは時間じゃなくて場所だということがわかる。その奇想天外のプロット。鑑賞中じぶんの胸がどきどき言っているのがじぶんでわかった。

(これを見ながら)映画は言いたいことを娯楽にトランスフォームするひつようがあること。それができるあたまのいいひとがつくるもの。──だと(いつもながら)思った。

たとえばゲットアウトは黒人差別をカリカチュアしていた。透明人間はDVに着眼していた。プロミシングヤングウーマンは女性蔑視を警告していた。でもエンタメになっていた。社会派でございますよ──てな皮相はまったくなかった。本作も白人の優越を皮肉しながらかんぜんにエンタメしていた。撮影もVivid。すごい映画だった。

が、この映画、海外評価は低い。

わたしは本作に感動したが、いつもはIMDBやRottenTomatoesの値に準ずる評価をする。IMDBやTomatoesの値とじぶんの評価が乖離していることはめずらしい。

それゆえ、なぜこの映画が海外(IMDBやTomatoes)で低評価なのか、Tomatoesの批評家たちの言い分からさぐってみた。

映画にはあらゆる公民権映画のなかでもっとも苛烈といってもいい黒人蔑視描写が出てくる。
そのプランテーションで黒人は(白人の許可なければ)しゃべってもいけないしどんなことにも隷属させられ焼き印を入れられ慰安をさせられ脱走がばれると射殺される。

その過剰な加虐描写が悪趣味だと言っている批評家は多かった。
たしかにゲットアウトの洗練された皮肉にくらべると露悪的だった。

批評は主演のJanelle Monáeの演技が褒められていたこと以外はバラバラで、正直なぜこれが酷評されているのか、その最大要因はよくわからなかった。だから予測になってしまうがおそらくBLM(ブラックライヴズマター)と被ったことで黒人を虐める映画に一種の「疲れ」があらわれた結果ではなかろうか──と思う。

日々BLMのムーヴメントに晒されている環境(アメリカ圏)では過剰な黒人いじめ描写に疲弊するのはとうぜんだろう。畢竟BLMを知らない極東のアジア人のわたしにはいい映画だった──というわけ。

監督はこれが長編一作目。Gerard BushとChristopher Renzという黒人と白人の異色コンビ監督だった。この二人は今後、アスターやピール、ワネル、ミッチェルのようなすごいホラー/スリラーをつくると思う。