津次郎

映画の感想+ブログ

個性的でスタイリッシュ アス (2019年製作の映画)

3.6
しばしば、プロモーション用ポスター/サムネをひと目見ただけで「あ、いい映画だ」と思ってしまうことがあります。
Usのそれは、少女がじぶんの顔面のお面をのけて半顔をのぞかせている、とてもスタイリッシュな画です。
輝くようにきれいなダークブラウンの肌、喫驚の表情、その白く大きな瞳がよけいに際立って見えます。「あ、これは絶対いい映画だ」と思いました。

色の濃い黒人を主人公としていることが、すでにJordan Peele監督の特異性です。西洋世界に寄り添う我々は、ドラマに出てくる一般的なファミリーと言えば、まず白人のそれを思い浮かべます。いつだって、オー!マイキーみたいな人たちが物語の主役なのです。

その定石を崩すことで、つまり、ただ黒人を主役に据えることだけで、社会的メッセージを発することなく、黒人の地位向上に貢献しようとしている、のは言うまでもありません。それはSpike Lee、Antoine Fuqua、Steve McQueen、黒人の映画監督たちが、必ず備えている内在律だと思います。ただJordan Peeleのはとても無意識的です。
Get Outでは白人の黒人に対する固定概念が、静かに、痛烈に、批評されていました。

Usにも、そのような主張はありますが、もっと遠回しです。遠回しですが、全米を代表する家族が黒い肌をしていることは、有効なボディブローです。ただし、そのような社会派なスタンスを全く表立たせずに、楽しめる映画に仕立てているところがJordan Peele監督の真骨頂だと思うのです。

Keddie murdersのような世界が描かれるのかと思っていると、ホラー/サスペンスの常套性を回避するように、妙な方向へ変転していきます。そのアイデアもさることながら、愁いの雰囲気づくりが巧妙です。心象を語るとき、超スローのズームインまたはアウトを使うのですが、それがすごく語ります。ウサギのカゴをゆっくり引いていくタイトルロールから引き込まれました。

Get Outはコミカルでしたが、本作も笑うところはないものの、そこはかとなくコミカルな気配がありました。且つ垢抜けたカメラワーク、また音が印象的です。鋏の音、鈍体で殴ったときの音、レッドの声。やはりこの監督は「なんか本物だ」と思いました。
It Followsでホラー映画に新しいアイデア/スタイルをもたらしたDavid Robert Mitchellとの共通点を感じます。ぜったいに見たいと思う監督です。

余談ですが、いつもながら、有望な映画監督を反面したとき、日本のホラー映画が20年前の貞子を焼き回しているだけなのがよくわかってしまうのです。