津次郎

映画の感想+ブログ

地味だけど使い手中西健二 花のあと (2009年製作の映画)


4.5
中西健二監督はなぜかwikiもない映画監督ですが青い鳥という名作を撮っています。青い鳥ゆえ、ググったときぞろぞろ違うものが検索されそうなタイトルに難はありますが、個人的にはカルトだと思います。
この映画と青い鳥を見ると中西監督の秀でた演出力が解ります。主張はしませんが堅実で丁寧なのです。

山田洋次の藤沢周平がアクション映画としてカウントされることは無いのですが、殺陣シーンでは緊張が走ります。実質的にはその「寡」をもって、たとえば無限の住人の大量殺戮を凌駕していると思います。そのように掉尾へ向かって紡いで、切羽詰まらせるのが藤沢周平の復讐劇です。案外、コミックを翻案した時代劇より、はるかに高い興奮度を持っていると思います。

この映画の特異性はひとえに女侍ということです。
戦う女性はありふれたモチーフですが、邦画中ではICHIやあずみが時代劇として類似するかもしれません。近現代なら極妻か女囚か刑事か、あるいはスプラッター系かコスプレ系か露出系になるのでしょうか。総じて海外は戦う女性が巧いのですが、日本のばあいアニメを除けば戦う女性に拙い印象があります。
前述のごとく藤沢周平がアクションにカウントされることはありませんが、この映画の以登は、考証と現実味を備えた剣の使い手であり、骨格のあるヒロインでした。偏りのある言い方なのは認めますが、有りそうで無かった、まともな戦う女性の実写映画だと思います。絶対的な希少性でした。

以登が復讐を決意するのは、たまたま父を訪れた孫四郎と手合わせをしたのがきっかけでした。弱石高の三男ですが使い手です。
いざ手合わせをしてみると孫四郎は女子の剣であることをあなどりません。また組頭の令嬢であることをおもねりません。以登と真摯に勝負したのです。
それを太刀筋で理解した以登は孫四郎に恋心を抱きます。
ところがその後、孫四郎は江戸詰になったものの御用人藤井の奸計に遭い切腹を余儀なくされてしまいます。

以登の復讐は孫四郎と手合わせをしたときの回顧によるものです。真剣に打ち合ってくれた孫四郎が忘れられず、その孫四郎を切腹に陥らせた藤井の謀が許せません。「ただ一度竹刀を合わせただけ」それだけのために命を懸けます。

それらのくだりを丁寧に描き終局の果たし合いへ持っていきます。丁寧に描くほどに、果たし合いが怒濤の興奮度を孕んでくるのです。藤沢周平の独壇場でした。

余談ですが、日本の時代劇では、役者はしっかり化粧しきれいに結い汚れもほつれもなく、建造物やロケーションもしっかり整備されていることが多いのです。個人的にその垢のない世界がとても気になります。
スポンサーや製作委員会の都合ではアート/リアリティへ落とせないのかもしれませんし、大河ドラマに画面が汚いと文句をつけるほど潔癖な人もいますので、一概には言えませんが、映画世界にはそれに見合う不協和が必要だと思っています。
私なら画面がきれいと文句をつけるでしょう。
世の中にはきれいで興醒めする人もいるわけです。この映画も危うく興醒めするところでした。しっかり見て良かったと思います。

ちなみにだいぶ前に見たのですが、私はこの映画でそれほどでもなかった北川景子が好きになりました。また甲本雅裕がいつもながらいい味を出していましたし、市川猿之助の憎まれ役も既に堂に入っていました。