津次郎

映画の感想+ブログ

いちど疑われたらお終い 偽りなき者 (2012年製作の映画)


4.5
ウディアレンの最盛期、ハンナとその姉妹あたりまでは、オシャレな映画監督の代表格で、文化人がよくその魅力を語っていたものです。

私は昔からウディアレンが苦手で、映画そのものにも感興できませんでしたが、とりわけ映画にまとわりつく山の手なスノビズムが嫌いでした。

今でこそ居ませんが、かつてはアレン映画の解釈をのたくる文化人が大勢いて、あれらのエスプリを解するのがオシャレと見なされていたわけです。
例えるなら、中野翠もどきがウジャウジャ居て、しきりにウディアレンを褒めそやしていたわけです。(むろん中野翠は立派な批評家です)
その雰囲気がじつにスノビズムでした。昭和の終わりごろの話です。

しかしアレン節も、時代を追うごと、徐々にありふれたペーソスになり、先年(2018)のディランファローの二度目の告発で、長年、年1でつくりつづけた監督業も、ほぼ休業状態に追い込まれてしまいました。

このセクハラ告発を、どう見るか、人それぞれですが、私にとっては残酷な美醜対決に見えます。

アレンと仕事をしない又は後悔していると公表した俳優はティモシーシャラメ、レベッカホール、エルファニング、エレンペイジ、ミラソルビノ、グレタガーウィグ、クロエセビニーetcといったそうそうたる美麗スターたちであり、対するのは、年老いたアレンとあの化粧っ気のないスンイーです。
何が真実なのかは解りませんが、MeTooの潮流にプラスしてスターたちの拒絶があってはアレンに分はありません。

マリオンコティヤールはこの一件を、
「私生活についてはよく知らなかったけど、養女と結婚したと聞いて、正直ちょっと気持ち悪いと思ったのを覚えているわ。撮影現場でもどこかギクシャクしていて、私にとってはあまり良い体験ではなかったし、彼と仕事をすることはもうないでしょうね。今回の報道が事実か否かは、当事者じゃないから何とも言えないけれど、ディランさんが苦しむ姿を見て胸が痛くなったということだけは確かね」
と語っていて、これは殆ど一般的な見地を代弁してしまっています。泣いて訴える女性にシンパシーを感じない人は圧倒的少数派ですし、じっさい彼は限りなく怪しいわけです。

真実は知る由もありませんが、個人的にはミア側もかなり過当な感じがします。
ハリウッド俳優が養子を引き取るのは知っていますし、その行為そのものは殊勝な心がけですが、いくらなんでも引き取りすぎです。それ(多人数の養子)に自分自身を母たらしめる目的はなかったか、そんな富者の驕りを感じずにはいられないのです。ディランの告発は信じられても、結局、ミアの養子乱受容に起因があるはずです。

とはいえ、おそらくアレンはやった、と思います。
しかし当人はもちろん否認したうえで、釈明しています。曰く「そもそもこれは何年も前に決着している問題であるし、何十人もの女性から訴えられている奴(もちろんワインスタインを指しています)と、ひとりの義娘から一回だけのことを訴えられ、その他にいかなる告発の来歴もない私を一緒に語らないでくれ、ほんとに迷惑しているんだ」というものでした。

この気持ちは解ります。50年以上に及んで映画業界に貢献し、多大な評価を浴びながら、一回の告発によってキャリアが破綻したわけです。事実A Rainy Day in New York(2017)もお蔵入りです。

この時、私たちはそれが一度だけの過ちであろうと社会の敵になる罪を痛感します。子供にやったことは許されてはならないのです。

それは、たとえシロでも、たんなる嫌疑であろうと、生涯の汚点になってしまうのです。この映画のラストの一発の銃声はそれをあらわしていました。疑いが晴れたかに見えた後だっただけに、より一層「ビクッ」となりました。
なにしろ彼はやっていないのです。そしてそれを痛いほど知っているのは観衆だけなのです。その物凄まじいジレンマ!
ペドフィリアを許してはなりませんが、ゆめゆめ迂闊に判定してもいけません。
まったくもって見事な演出で描かれた、冷徹なドラマでした。