津次郎

映画の感想+ブログ

銃社会の哀しみ フォールアウト (2021年製作の映画)

フォールアウト(字幕版)

4.5
ブレックファストクラブ、クルーレス、ミーンガールズ、ウォールフラワー、EasyA、The Edge of Seventeen・・・アメリカのゆうめいな学園映画を表としたとき、それらの裏となるのはマイケルムーアのボウリングフォーコロンバイン、ガスヴァンサントのエレファント、あるいはこのThe Falloutだと思う。

銃乱射事件は、キラキラで明るく楽しい舞台(学園)を、一瞬で凍り付かせる。
とても違うのにとても近い。──表裏だ。

本作は銃乱射事件によってトラウマを負った女子高生の話。
PTSDをかかえて学校へ行けなくなり、現実と向き合えなくなってしまったヴァダ(Jenna Ortega)のかなしみを描いている。

かなしさの描写が多彩。たとえば日本映画ならば、かなしいを泣かせることで表現するが、ここではもっと豊かに巧みに心象を活写していく。

この映画の導入となるカラクリは陰キャのヴァダが事件をきっかけに一軍のミア(Maddie Ziegler)と懇意になるところ。社会性を醸しつつもBooksmartみたいなデジタルな現代感覚を操っている。

監督Megan Parkの来歴を見たら女優業をやってきた人で、ショートとMVはあるものの長編の監督はこれが初。加えて原作も彼女が書いていた。

にもかかわらず日本の“巨匠”や“鬼才”も描けないような鮮やかな機微をさらりと表現してみせる。
やっぱぜんぜんちげえわ・・・という感じ。
いちいち日本映画と比較すんな──だが、日本映画業界にとっての孤高は、観衆にとっては孤立に過ぎない。外国作品を見るたびに日本映画をあざけるのは効果的なアジテイトだと思っている。

さらに本作の特長はきれいなこと。
チョボスキーのWonderがなぜ多く支持を得たか──と言えばきれいな人ばかり出ているから。ジュリアロバーツ、オーウェンウィルソン、Izabela Vidovic、ダニエルローズラッセル。Treacher Collins症候群のオギーの造形さえも“かわいい”といえるレベルだった。

The Falloutもきれいな人ばかりでてくる。主人公ヴァダ役のJenna Ortega、ミア役のMaddie Ziegler、アメリア役のLumi Pollack。セラピスト役としてShailene Woodley。
とりわけ事件以降急によそよそしくなった姉ヴァダになんとか取り入ろうとする妹アメリアのいじらしさがアドラブル。
映画にもTikTokみたいに単純な法則“最終的にはビジュアルが勝つ”──っていうのはある。人々は見た目に正直に反応するものだ。

ただしビジュアルにくわえて前述したように演出がとてもうまい。すくなくとも日本にこんな空気感を出せる監督はいない。ヴァダとミアがきすするところなんかアブデラティフケシシュのように官能的だった。

女子力という言葉があるが映画をつくるには人間力が必要な気がする。アメリカで相次ぐ銃乱射事件から36歳のMegan Parkはこれを書いて、撮った。そういう社会性と技量を日本で培うことができるんだろうか。日本の女優は“いい”映画をつくれるのだろうか。

──

日本でも米国の銃乱射事件が毎日のように報道されもはや驚きも失せた。事件が相次いだことで6月(2022年)には銃規制法が成立したが、抜本的なものではないらしい。銃規制が進まない理由として全米ライフル協会の権力が強い──が比較的知られているが、根本因子には自警が米国民のアイデンティティと化しているから──というのがある。家族を守る家長なら丸腰でいようとは思わないだろう。

お気に入りの演技派John Ortizが父役で出ていてちょっと光った。