津次郎

映画の感想+ブログ

奇想天外 バーバリアン (2022年製作の映画)

バーバリアン

4.0
じっさいAirbnbでBrightmoorを検索してみたらとても安かった。

Brightmoor, Detroitのウィキには記者の言葉をかりて──
『ブライトムーアは、デトロイトが一般に想像されるような、都市のゴミ捨て場、犯罪現場、野生の草原が混ざったような驚くべき光景──そのものです。』
──とあった。

20年代にベットタウンとして拓かれたものの、デトロイトの没落とともに朽ち、人口も減り続けている──とのこと。

そんな危険な地域に女(Georgina Campbell)がひとりでやってくる。
が、物件に着くと別のプラットフォームで借りた先約がいる。
涼しい顔のイケメン(Bill Skarsgård)だが豹変するタイプの男にも見える。・・・。

しかし本題は全然そこじゃない。
観衆の注意を逸らしまくって、いったんBarbarianを登場させるとAirbnbの家主へ視点を変える。

家主AJ(Justin Long)は俳優だがレイプ沙汰をおこし、テレビシリーズを解雇されAirbnbに登録した家を売り払おうとしている。
が、思いがけず地下空間を発見し、慮外の付加価値に喜んで、呑気に寸法を測りはじめ──襲われる。

──と、また視点が変わる。デトロイトの荒廃がはじまった70年代。ヨーゼフフリッツルのような暗いたくらみを持った男が母体を物色している。・・・。

あざやかな語り口とショッキングな絵づくり。
目新しい方法を用いながら、後味はいちいちねばつく。
じわじわくる胸やけのような不快感。
廃屋だらけの街、不気味な地下住居、男のエゴイズム、長く繰り返された近親姦・・・。

──

Barbarianのwikiによると、監督のZach Creggerは「The Gift of Fear」という本に触発されて脚本を書き始めた──とあった。

「The Gift of Fear」は暴力や虐待のストーリーにパターンを見出すことで、暴力に内在する予測可能性を浮き彫りにしようとしたノンフィクション。Gavin de Beckerという人が1997年に書いて定期的にベストセラーになっている。とのこと。

『職場、家庭、学校、デートなど、暴力が起こりうるさまざまな環境を調査し、Beckerが「事件前の指標(PINS)」と呼ぶものを解説している。PINS(暴力の前にしばしば起こる出来事や行動)に気づくことで、個人は暴力が起こる前にそれを予測し、その結果、安全を保つために必要な予防策や行動をとることができるようになります。』
(wikipedia、The Gift of Fearより)

──書き始めたものの、ありきたりであることに不満を感じ「ひっくり返す」ことにしたのだそうだ。

つまり、われわれ観衆が映画の前段で、見知らぬ男と民泊をダブルブッキングした女の恐怖を描くのだろうな──とか、キース(Bill Skarsgård)をいい人に見せておいて豹変させるのだろうな──とか、思った予想は合っていた。──ことになる。

少なくとも監督Zach Creggerはそういうものを書くつもりで書き始めた。が、ひっくり返し、(天と地ほどにも違う)まったく別の話へ持っていく。

『自分にとって楽しいシーンを書きすすめるうちに夢中になり、どこへ行くのか分からないものになり、それが長編映画になってしまったのです。』
(wikipedia、Barbarianより)

けっきょく劇的な位相のズレを内包した、このBarbarianは、Zach Cregger監督のムラ気から生み出された、と言える。が、そんな偶発性をまったく感じさせない斬新でvividなホラーになっている。むしろ意図的に観衆の注意を逸らしているようにさえ見えた。
あっちの優良ホラーの何がすごいってそういう“はかりしれなさ”がすごい。