津次郎

映画の感想+ブログ

いい人 オットーという男 (2022年製作の映画)

3.9

トムハンクス出演作がほとんど高クオリティ作品なのはどういう仕組みなんだろうか。
自身のマネジメントによって常にいい作品へ出るようがんばっているにしてもすごい打率だと思う。

たとえばジュリアロバーツのお兄さんのエリックロバーツはすべてB~Z級作品。後期のブルースウィリスもそうだった。ニコラスケイジも近年はずっこけ作品のほうが多くなってきた。

そういった俳優の出演作の打率をかんがみたとき、ほぼすべてが高クオリティ作品のトムハンクスってどうなっているんだろう──と、毎回毎回思うわけである。

ちょっとさかのぼってもElvis/Finch/ABeautifulDayintheNeighborhood/Greyhound/NewsoftheWorld/ThePost/ハドソン川・・・ぜんぶ優良作品だったし、じぶんの映画鑑賞歴のなかでもキャプテンフィリップスやキャストアウェイやYou've Got Mailやプライベートライアンやターミナルやグリーンマイルやフォレストガンプや・・・(Bigも好き)などなどが記憶にのこっていて、それらはいずれも万人の記憶にのこっている名画なわけである。

たんなるマネジメントだけで、このすごい高打率を達成できるんだろうか。ちゃんと(台本を)読んで、いい映画になるのがわかってやっているにしても、そうとうな引き寄せ体質プラス職業勘があるのだろう──と思う次第なのだった。

で、オットーという男を見たがやっぱり手堅かった。

Marc Forster監督は手堅い演出に定評がありハンクスの奥方(リタウィルソン)が製作に加わっていた。ハンクスはかなり能動的にいい作品に出ようとしているのだろう。その姿勢が「来るものこばまず」なニコラスケイジなんかとは違う。

手堅い映画の見本のような映画だった。頑固爺が周囲の恩愛にほだされて溶解するという話。いやなことはおこらず、いやな人もでてこない。音楽(選曲)もいい。現代的な事情(SNS文化)をとりこみ、ぴりりとアイロニーもあるが、結局ほろりともっていく。やたら巧かった。

が、この映画ではハンクスよりも周りのほうが印象的で、好感度はメキシコ(スペイン語)なまりのマリソル役Mariana Trevinoがもっていく感じだった。
若年期のオットーを演じたTruman Hanksもばっちり好青年で良かった。(Truman Hanksはハンクスの実の息子だそうだ。笑)
感じのいいマルカム役Mack Baydaはほんとに女から男に性転換したYouTuberだそうだ。
また猫も名演だった。みすぼらしいなりの野良ってきゅんとさせるんだよね。

メキシコではそこそこ名も知られていたにせよマリソル役Mariana Trevinoは大抜擢だったようでウィキに──
『マーク・フォースター監督は、スペインのホテルの部屋から携帯電話で録音した彼女のオーディションテープに「圧倒された」と述べた。』とあった。
その慧眼もさることながらMariana Trevinoの庶民値と母性値が遺憾なく発揮された映画だった。30代に見えるけれど撮影時44だそうだ。
適切な人を探してきて配役する──当たり前に思えることだけど、ハリウッド映画はそのことにいちいち感心してしまうんだよね。

この映画はおとぎ話だと思う。

オットーは家や周囲をいつもきれいにしているし女児をまかせても心配ないし機器の修理ができるし人助けもする。まっとうな人間性があり、不機嫌を溶かされたにせよ、彼はいい人物だったんだ。逆説なんだよな。
だけど現実はそんなに美しいわけじゃない。ご近所づきあいもないし、こんなふうに次世代や隣人を助けて逝きたいけれど善行しようにも現世のしがらみの中ではうまくはいかないものだよね。
だからこの映画内世界が愛おしく見えるんだ。と思った。