津次郎

映画の感想+ブログ

感傷的ではあるけれど アンダーテイカー 葬る男と4つの事件 (2009年製作の映画)

アンダーテイカー 葬る男と4つの事件

4.0

リテラシーとは感傷に敏感になることだと(も)思います。
露骨な叙情や泣かそうとする演出にたいして抵抗値をもつこと──いわばある種ひねくれた鑑賞眼のことをリテラシーというのだと思います。

とはいえ感傷には巧拙があり、臭みがない叙情もあります。

レビューは好悪を吐露する場所なので、たんにわたしが不徹底なだけ──でもありますが、誰にでも好きな感傷があると思います。

Powder Blueをよく覚えています。感傷的な群像劇でした。

もっとも好きなシチュエーションはフォレストウィテカーのパートでした。

ウィテカーは愛妻を亡くし絶望にとらわれ死のうとしています。街へくりだし自棄的なことをやってじぶんを破滅させようとします。出会った者にじぶんをころしてくれるように依頼したりします。

そんな彼にダイナーでいつも話しかけてくるウェイトレスがいます。リサクドローが演じていてウィテカーの悲しい目と善人気配にほだされたのかいつも親切にしてくれます。

かのじょはDV値のある夫に束縛された、しがないウェイトレスです。じぶんの人生を打開してくれるようなやさしい男をもとめています。

この点景は人生に疲れた者どうしが互いの傷をなめ合おうとしている様子──かもしれませんがウィテカーとクドローが演じていることで、たんなる感傷を乗り越える説得力を(個人的には)感じました。

クドローに話しかけられるたびウィテカーははにかんでいるような礼儀正しい態度をとります。ふたりのやりとりがすごく好きです。

ロサンゼルスを舞台に、わずかに関係性のある者たちの顛末を追っていきますが、いずれも絶望から希望へ転じるような出来すぎなコンポジションになっていました。

レイリオッタは降り積もった青い雪につつまれて凍死しますが、元気になった息子と砂浜で遊ぶ美しい夢を見ます。

総てがそのようにセンチメンタルな話ですが個人的には臭みを感じませんでした。いわば“跡隠しの雪”のように悲しみを青い雪がおおい尽くすという叙情に帰結するメルヘンだと思います。

本作は批評家から酷評されています。rottentomatoesは25%と40%。
批評家はクラッシュやマグノリアなど傑作群像劇の絶望的なコピーだとけなし、過剰なセンチメンタリズムを嘲弄しています。
また映画のセールスポイントをジェシカビールのストリップ嬢にもってきていることを低俗視しています。

批評家の指摘はもっともだと感じる一方、個人的には良質なセンチメンタルだと感じたので、とんちんかんな邦題「アンダーテイカー葬る男と4つの事件」をのぞけば好きな映画になったのです。