津次郎

映画の感想+ブログ

アメリカの祝日 サンクスギビング (2023年製作の映画)

サンクスギビング

3.4

感謝祭とはイギリスからアメリカに渡ってきたピルグリムと呼ばれる人たちが新しい土地での初めての収穫を神に感謝をしたことが起源です。その食べ物の栽培方法を教えてくれた先住民であるネイティブアメリカンを招き一緒に祝いました。
──とネットの拾い記事に書いてありました。謂わば、わけへだてなくみんなでごちそうを食べる日です。エイプリルの七面鳥(2003)を見るとそれがわかると思います。

映画はスーパーマーケットにおけるブラックフライデーの暴動からはじまります。
ブラックフライデーとは感謝祭後のセールのことだそうです。
感謝祭のない日本とはがんらい無縁ですがバレンタインにチョコを買うとかクリスマスにKFCを買うとかなにかと無縁な祝日に同期行動をとりやすい日本人を新たな消費行動に奔らせるために通販大手が最近日本でも使い始めました。ブラックフライデーというかっこいいひびきに釣られて日本でも定番化しつつあるようです。

ピルグリムとは訳をみると巡礼者とでてきますが日本で巡礼者というとアニメの聖地をめぐる人とお遍路さんくらいしか思い当たらず、感謝祭の説明に出てくるpilgrimの意味と合致しません。

わかりやすい説明がなかったので独自につくった説明ですがpilgrimとはシヴィライゼーションで新しい都市をつくりたいときに生産する開拓者ユニットのようなものです。開拓者ユニットは移動して都市をつくると消滅します。その入植して殉教する──という感じがpilgrimです。遠くから命がけでやってきて最初にそこに生活基盤をつくりますが過酷な環境のせいで息を引き取る──という感じがpilgrimのイメージです。

イギリスを出発したメイフラワー号の乗船客ピルグリムは東海岸のマサチューセッツ州に植民地を築きます。そこの最初の総督がジョンカーバーという人で、この映画の殺人鬼です。黒装束と、巻きにバックル装飾があるシルクハットを被り斧を持っています。ジョンカーバーは最初の冬に亡くなりますが意思を継いだ者らによって感謝祭が開かれます。

なぜ開拓者が殺人鬼たりえるかというと、先住民にとってみればピルグリムたちの入植は海賊の侵略でしかないからです。ピルグリムはその辺りに住んでいたワンパノアグ族の土地を奪い、新たな病気を持ち込み、大量虐殺行為をおこないました。先住民によって入植を助けられたにもかかわらず、です。よって感謝祭というその後恒例化した習慣もネイティブアメリカンたちをなだめて協調路線を敷くための戦略的な行事だったはずです。
ジョンカーバーは感謝祭をつうじて肯定的に受け容れられてきた総督ですが、彼の功績は死と破壊の上に築かれたと言えるわけです。あちこち検索したらそんな感じの由来がありました。

脚本家のJeff Rendellと監督のイーライロスはこれらの歴史に着目して、13金やハロウィンやスクリームに匹敵する新しい仮面の殺人鬼とホラーストーリーを創造しました。それが本作Thanksgivingです。

率直に言って常套手段をもちいたスラッシャーですがロスのやりすぎ演出が効いて残酷描写にパンチ力がありました。じっさい何度か、度を超えたゴア表現に思わず「ひええ」と悲鳴をあげてしまいました。

すでにThanksgiving2の話があるようにロスがつくりたかったのはフレディやジェイソンのように続き物で一定興行が見込める稼ぎ頭です。ジョンカーバーにはその勢いがあり、やられる側の体育会系・DQN系の“きみたちはカーバーにやられなくてもしぬでしょう”という感じの放恣もうまく描かれています。ヒロインのNell Verlaqueは見開いた目が語る人で、インフルエンサーAddison Raeの尻軽演技も上手でした。
最初の暴動のシークエンス、安売りにむらがるようになったら人間おしまいだと思わせるような刺激的な描写につかまれます。

imdb6.4、RottenTomatoes84%と79%。