津次郎

映画の感想+ブログ

王室スキャンダル:BBC記者の追及 グレート・スクープ (2024年製作の映画)

映画「グレート・スクープ」(原題:Scoop、2024、Netflix配信)をみる。王室メンバーのスキャンダルのインタビューの裏側。 -  fpdの映画スクラップ貼

3.2

エプスタインの顧客だったアンドルー王子を追い詰めていくBBC記者の話。アンドルー王子のインタビューはBBC史上最高視聴率を獲得し多数の賞を受賞したそうだ。

アンドルー王子はエプスタインの別荘で未成年を買い乱交パーティーにも参加した一顧客だった。だがもっと高い頻度でエプスタイン邸を買春利用した得意客が多数いる。アンドルー王子が大きな注目を集めたのはかれが英国王室だから。

映画は英国王室であるアンドルーが未成年者を買春したのだからスクープだと言っていて、それはまったくそのとおりだが、エプスタインとその周囲を俯瞰で見たばあいに、もっと告発すべき悪い奴がいる。──という観点で見てしまうとインパクトが削がれる。

またアンドルー王子はサヴィルやワインスタインやラリーナサールや喜多川やエプスタインみたいなプレデターでも変態でもペドでもなく、チャールズの弟で女王のお気に入りでフォークランドに従軍しロイヤルファミリー枠じゃないポジションで戦った。
映画もアンドルーの人となりをある程度擁護しながら描いているし直属秘書も同情的だった。が、買春は証拠があがっていて、当人は一貫して否認しつつも公務からは退いた。

ある程度の情報が揃ってきたスキャンダルを紐解いていったときに最初の印象とは違う見地が見えてくることがある。だいたい世のスキャンダルは、あっちが悪いのはとうぜんだとしても、こっちも「なんかちげーぞ」という新局面がでてくるものだ。それを吟味することは映画レビュアーがよく使う「リテラシー」とおなじ見識ではなかろうか。

たとえばさいきん猖獗を極めるお笑い芸人の一件でも、界隈に出入りしていた女たちというものは、予期せずにはめられたにせよ、芸能人にまとわりついていたなら、それなりな連中ではある──という見方があってもいい。もちろんかれらは獣のごとく遊び散らしていたに違いなく、泣き寝入りした女もいたであろうが、引きで見ると加害者も被害者も同類感を否めない。

あるいはたとえばストーミーダニエルズは無自覚にトランプに近づいたのかといえば答えはNOである。彼女は口止めに13万ドルをもらい暴露本でも儲け被害者の立脚地を得た。だからといってトランプが悪くないということはないが素面と商売の区別をつけていないポルノ女優がせまってきたばあいにそれが奸計かそうでないのかはパンドラの箱である──ということを言っている。

ジャーナリストレイプ事件の女だってそうとうなたまだと思うぞ俺は。

そういった考え方をどこかで言ってみることはないにしても、情報があるならそれを吟味するのはリテラシーですよ──という話である。
諸悪の根源がエプスタインなのは前提だが彼の王国はパートナーだったマダムギレーヌことギレーヌマクスウェルのグルーミング手腕とセットだった。
牙城に未成年をあつめ富裕層へアテンドしていたのはギレーヌマクスウェルでありエプスタインの売春システムが何年も水面下で回ったのは老獪なマダムギレーヌがいたからだ。

所有する島や人身売買で買われて連れて行かれた子供らとは違い米英のエプスタインの娼館では、未成年はそこでなにをするのかを自覚しながらのこのこやってきて、ことが済んだら帰って行く。
それはグルーミングによる洗脳だから気の毒な犠牲者と見るべきなのであろうが未成年のパワーワードを外せば早熟なsugar daddyとも言える。反復利用している子のなかには「味を占めた」子もいたのではないか──という連想は払拭できない。
こうした構造では、はめられたのかはめたのかがパンドラの箱になる。ことがある。

エプスタインは顧客と未成年がやってる画像や映像をつかって裕福な顧客を脅迫することで資産形成し、マクスウェルは少女たちに未成年と公人は10:0(ジュウゼロ)だとおぼえこませた。で、未成年の女たちが成人になったとき、人と車がジュウゼロなのを利用した当たり屋のようなことをしはじめた。──としても不思議はない。最も著名なエプスタインの告発者であるVirginia Giuffreはさいきん逆告発されている。

つまりアンドルー王子は、ワインスタインやジャニー喜多川みたいな単純な性欲のプレデターではない。ただ英国王室だったからBBC最大視聴率に晒されて失脚した。悪辣なサヴィルや5,000人やった喜多川がなんの科も受けずに物故したのと比較すると、アンドルーが悪くないとは言わないが、見ていて同情の余地があったという話である。

全員が実在の人物を演じ、主人公はいつもシャネルを着ている記者(Billie Piper)で、Gillian Andersonもアンドルー王子をインタビューしたジャーナリストEmily Maitlisに似せて役作りしているが、Rufus Sewellが演じたアンドルー王子がいちばん上手、似ているし巧かった。
(Netflix: Behind the StreamsチャンネルにRufus Sewell transforms into Prince Andrewという2分の変身メイキャップ動画があがっていて興味深く見た。)

imdb6.6、rottentomatoes78%と63%。