津次郎

映画の感想+ブログ

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

豊富な筋と寓意 ブルーベルベット (1986年製作の映画)

5.0映像の効果で、一聴その光景にそぐわない楽曲のかかる方法が、よくある。専門用語があるのかもしれないが、わからない。 たとえば、混沌──天安門事変やベルリンの壁の崩壊や多発テロや東日本大震災のような画像をフラッシュしながら、バックには中島みゆ…

純心を失った大人へ 8 1/2 (1963年製作の映画)

5.0いまおもえば、昔は凝った映画があった。現代人は忙しくて美学に与していられない。端的に面白がらせてくれる映画を好む。──ということ、なのかもしれない。 8 1/2を見返していると、その到達している値に感心し、ペーソスに共感する。車の上で両手を開き…

スキルフルな夢想家 LIFE! (2013年製作の映画)

5.0閉じて余韻にひたっているところへ、Jose GonzalezのStay Aliveがかかる。しずかなバックサウンドに雪解け水のようなヴォーカル。エンディングクレジットと同時に、劇中スチールがつぎつぎに流れる。ああほんとにいい映画だったなあ。──の余韻が胸中いっ…

退廃と様式美 リヴィッド (2011年製作の映画)

3.8日本映画の課題は、どやの払拭にある──と思うことがある。ホラーでもコメディでもアートハウスでも「どうだすげえだろ」感がかいま見えてしまうと、おもしろさが半減する。──というか全減する。 かいま見えるというより、ダダ漏れさせてしまう映画監督が…

李相日のような重み 愚行録 (2017年製作の映画)

4.5冒頭のバスのシーンに、主人公の心象が表現されている──と思う。席を譲ったらどうかと勧める場面は、現実には殆ど見たことがないが、都市で見かける善意の提唱は、端から見て歪(いびつ)にしか見えない。 『年寄りには席を譲るべきだが、あなたに私の何…

アイデアと脚本で予算をカバー 彼女はパートタイムトラベラー (2012年製作の映画)

3.7囲み目メイクでないとオーブリープラザにならない。 メイクのことは詳しくないが、ナチュラルな今っぽい囲みでなく、昔の(なのかどうか知らないが)ガッツリの囲みがきまる。 この囲みメイクとオーブリープラザはセットであり、必然的に、役は広くないが…

現代版ハックフィン風寓話 ザ・ピーナッツバター・ファルコン (2019年製作の映画)

4.5ハックルベリーは長年の愛読書で村岡花子訳のボロボロの古い文庫をもっている。それは、ベットにあったりトイレにあったり風呂にさえあったりする。なにげなく開いて、開いたところを読む。 この映画はA Modern-Day Mark Twain Fabelと評された。指してい…

いがぐり頭でもエレガント アンダーウォーター (2020年製作の映画)

3.0Kristen Stewart forgetting she has short hairというバイラルになった動画がある。パーソナルショッパーの後でクリステンスチュワートが丸坊主になった。イメチェンにしても大胆である。インタビュー等で見るとけっこうファンキーな気性の人である。あ…

でかいステーキ リバティ・バランスを射った男 (1962年製作の映画)

4.0いつか見ようと思っていながら、見ていなかったThe Man Who Shot Liberty Valanceを見た。 個人的にはあっさりした印象の映画で、往年を楽しんだけれど、ジョンフォードなら駅馬車や怒りの葡萄やわが谷は緑なりきや荒野の決闘のほうがいい。 あとでwikiを…

生と死のバランス感覚 トゥルー・グリット (2010年製作の映画)

4.5西部劇にはバランスがあると思う。人が簡単に死ぬ、命がけで誰かを助ける、両者のバランスをとると、いい西部劇ができる──ような気がする。 隻眼のコグバーン(ジェフブリッジズ)は、恐れも情けも知らない老保安官だが、悪い奴らをあっけなく撃ち倒す一…

弱者を強調する臭さ あん (2015年製作の映画)

2.0是枝監督とならんで演出のリアルさが優れている。会話や仕草や表情など「この人たちは自分が映画に出演していることをわかっているのだろうか?」と思えるリアリティ。どうやってカメラを意識させないようにしているのか、わからない。 年譜を見ると、び…

ほのかなレイシズムの悦楽 女子ーズ (2014年製作の映画)

3.5演出には、演技をつけるばあいとアドリブがある、と思われている。勘違いだと思う。作っていない演出はありえない。しばしば鬼才づらのクリエイターが「ここはアドリブでいってみよう」と、振りかぶった──ようなものを、テレビや映画やCM等に見ることがあ…

寅次郎の“教養にわか” 男はつらいよ 葛飾立志篇 (1975年製作の映画)

4.5修学旅行中のじゅんこ(桜田淳子)がとらやをおとずれる。そのときのドタバタが数ある男はつらいよのなかでも出色の楽しさだった。 とうぜんながら、じゅんこの母=おゆきさんは寅さんのどれあいではなく、したがってじゅんこは寅さんの娘ではない。が、…

“いい趣味”代表 アメリ (2001年製作の映画)

3.3公開からずっと「いい趣味アピール」に使われてきた映画だった。 アメリは、その生い立ちから、人に素直に思いを伝えることができない。人と関わろうとしながら、直截の行動は気が引ける。そんな彼女が、恋愛を成就するまでの、迂回と寄り道が描かれてい…

斬新な語り口、独特な雰囲気 イット・フォローズ (2014年製作の映画)

4.1プールで浮かぶのが日課のヒロイン、ジェイ。栗毛のかわいい親友ケリー。貝のカタチのコンパクトみたいな端末でドストエフスキーを読むヤラ。おタク風のポール。 始めに、ヒロインと仲間の、生活臭の感じられない日常が描かれる。アメリカの典型的な郊外…

騎乗、ダスターコートで平原を疾走する男たち ロング・ライダーズ (1980年製作の映画)

4.0名手ロジャー・ディーキンスのwikiに彼の選んだベストテンが載っていて1位にワイルドバンチがあった。かるい衝撃だった。ほかも美徳を感じる骨太な選だった。 わたしはペキンパーがよく解っていなかった。むしろペキンパーの後継者と言われたウォルターヒ…