津次郎

映画の感想+ブログ

2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

真面目なダーク・スター アド・アストラ (2019年製作の映画)

3.0シリアスなドラマだがアクロバチックでもある。月面ではマッドマックスのようなバギー戦を生き延び、宇宙空間を慣性で泳いでくる。ゼログラビティ(2013)で主人公(サンドラブロック)がコワルスキー(ジョージクルーニー)の幻影を見る楽しいシーンがあ…

退廃的で新しい皮膚感覚 RAW〜少女のめざめ〜 (2016年製作の映画)

4.0何年も映画を見ていると、どんなに突拍子もないアイデアにも、そう驚かなくなる。発想の出発点から、映画に仕上がるまでの内的プロセスに、ある種の納得を得られるのが普通。それができなかった。 新入生が上級生から受ける手荒い洗礼はわかる。カニバリ…

背負うには重すぎる惨事 マンチェスター・バイ・ザ・シー (2016年製作の映画)

4.2ケイシーアフレックに感じるのは覇気のなさである。そんな役柄が多いし、兄と比べているところもある。不真面目で、だらしなく、向日性に欠けている。眠そうな目をして、消え入りそうなハスキーヴォイスでボソボソ話す。特徴的なのは間違いないが、概して…

映画監督ポール・ニューマン ガラスの動物園 (1987年製作の映画)

5.0演技の優劣を、どうのこうのと言うことが多いが、意外に白黒のつかないことだと思う。主観に占められ、下手と思っても世間では好評だったり、その逆もある。 演技が上手いのか下手なのか、判断できない役回りも結構ある。出番が少なすぎたり、感情表現が…

食べることにたいする漠然とした罪悪感と偏食 飯と乙女 (2010年製作の映画)

5.0日本のインディー映画──だと思うが──に感心したのは初めてだった。とても印象に残っている。以来、しばしば監督の栗村実や主演の佐久間麻由の名前を映画を検索した。監督自身の書き下ろしになる脚本がとてもしっかりしている。ほとんどびっくりするほどの…

しっかり怖いPOVホラー コンジアム (2018年製作の映画)

4.0POVスタイルが予算をかけずに映画を撮る方法だとは解る。ブレアウィッチから、とりわけアメリカではPOV画面を見ただけで辟易するような濫造の時期があった。落ち着いたのは、アイデアが出尽くしたからだろう。また、そもそも予算をかけずに撮ることがPOV…

梨泰院クラスキム・ダミの出世作 The Witch/魔女 (2018年製作の映画)

3.6設定も無敵の少女もなんとなくどこかにあるような物語なのだが、抜け出してくる迫力があった。韓国映画には、なんというか、ここまでのことはしないでしょ──を、してくる底力がある。と、同時に、俳優にこんなことはさせられない──を、させてくる魅力もあ…

サムラウリーとレクター博士 2人のローマ教皇 (2019年製作の映画)

4.5キリスト教徒のすくない日本では法王にたいして、えらい人という以上の主体的な感想はない──と思う。ましてスポットライトを見ていれば聖職にいい印象を持っていない。わたしもそれである。ぜんぜん知らない世界ではある。ぜんぜん知らない世界なのに、聖…

いきなり短刀FPS 悪女/AKUJO (2017年製作の映画)

3.7冒頭、Hardcore Henryのようなファーストパーソンシューターゲーム画面風のPOVシーンがある。短刀による接近戦でド派手、血糊も多く、迫力にのけぞった。主演のキムオクビンは多細胞少女(2006)という映画を覚えている。コミックが原作。貧乏クンという…

低予算と二番煎じ カメラを止めるな!スピンオフ「ハリウッド大作戦!」 (2019年製作の映画)

2.5死役所というドラマがありお客様は仏様ですからがキメセリフになっている。ただ、コミックならいざ知らず、発声するとなれば、二度三度は、しらける。同様のことはシーズンを重ねるドラマに言える。ドクターXのメロンもわたし失敗しないのでも足だして入…

魅力的すぎるふたり マリッジ・ストーリー (2019年製作の映画)

4.5TEDのネット配信でアダムドライバーの講演を聞いて感動したことがある。とんとん拍子な印象をうける俳優だが海軍を経てジュリアードに学んだ。その来歴を語っているのだが、鷹揚で理知とユーモアに富み、ゆたかな人間性が見えた。 かれはおそらくFrances …

非倫理な宿命 わたしを離さないで (2010年製作の映画)

3.6淡々としているのだが、早い話、臓器提供のために生きている人間であって、その宿命が、フィクションの体裁ではあっても、腑に落ちなかった。そんな宿命にもかかわらず、青春的なことをして、ちょっとはじけてみたりする彼らが、痛ましいといえば痛ましい…

ボーリングレーンで踊る少女が印象的 ビフォア・アイ・ディサピアー(原題) (2014年製作の映画)

4.0Shawn Christensenという映画監督が2012年にCurfew(門限)というショートフィルムをつくった。それが2014年にBefore I Disappearとして映画になった。公開/販売されたかはわからない。 浴槽で手首を切っていたリッチーのところへ、疎遠になっていた妹マ…

小粋なエドワードフォックス 遠すぎた橋 (1977年製作の映画)

4.0昔テレビで見た。映画スター総出演で、それが売りで、それが趣旨でもあった。すなわち、反戦や無謀な作戦の愚かしさを啓発する意図はあったとはいえ、スターを見ることに比重が置かれていて、ペーソスを云々する映画ではなかった──と思う。 監督はリチャ…

ルメット版を思い出しながら オリエント急行殺人事件 (2017年製作の映画)

3.3むかし、一般家庭では、映画は、テレビで吹き替えを見るのが普通だったと思う。シネスコを3:4にトリミングされ、CMにぶつぎりされ、放送枠の尺に収められ、終わると解説がつく映画、それが映画だった。 映画を見ない人でも、淀川長治と水野晴郎の物真似…

監督、アフターもやる気まんまん 映画 みんな!エスパーだよ! (2015年製作の映画)

1.0池田エライザのwikiに以下のようなエピソードがあった。『2015年、園子温監督の映画『みんな!エスパーだよ!』のヒロインに抜擢され、本格的に女優活動を開始する。同映画への出演はオーディションでの採用だったが、園に自身の映画をどう思うかと聞かれ、…

漂う無理臭 ひそひそ星 (2015年製作の映画)

1.0セピア調の昭和風屋内シーンから始まりますがパンすると宇宙船内です。なぜか1Kアパート的な台所がありなぜか昭和風な女性がなぜか茶を飲んでいます。宇宙船の操作パネルは手づくり感に溢れています。レトロラジオのような箱の船内アナウンスが意味不明の…

心奪われる情趣 子猫をお願い (2001年製作の映画)

5.0韓国映画がしばしば描く、非情な/暗鬱な/旧弊な韓国社会がある。ここにもそれがある。彼女らには出自や貧富の格差がある。世間には因習があり、社会は未成熟で、お金がなければ転落する。お金があっても、お人好しでは生きられない。誰も助けてくれず、ど…

40年後に有名になった口笛 ツイステッド・ナーブ 密室の恐怖実験 (1968年製作の映画)

3.5スティーヴマックイーンは認識が変わる。さいしょは大脱走の俳優で、さいきんは12 Years a Slaveの監督の名になった。ただわたしにはその間にもう一人というかもうひとつ、プリファブ・スプラウトの1985年のセカンドアルバム「Steve McQueen 」がある。 G…

むかしVHSで見た スターライト・ホテル (1987年製作の映画)

5.0むかしVHSで見た映画だった。舞台はニュージーランド。家出した少女とお尋ね者の逃避行で、内容は記憶が薄れてしまったが、感動したことをよく覚えている。 レンタルビデオの時代は、情報が僅かだったこともあり、何げなく借りた映画が当たると、望外の喜…

悪い人気者 ジョーカー (2019年製作の映画)

3.7何も知らずに見た。何も知らずに見ると短絡にとまどう。バットマンおよびその周辺に特別な関心を持たない一般人にとって、ジョーカーとはバットマンの仇役だとの説明がなければ、おそろしく単純化された社会である。アーサーは社会からの疎外を訴えている…

ところで、なんなんだこの邦題は 雨の日は会えない、晴れた日は君を想う (2015年製作の映画)

4.0映画も印象的だったが、邦題が雨の日は会えない、晴れた日は君を想う──となっていたせいで、よく憶えている。 よく知らないのだが、外国映画の邦題は誰が付けるのだろうか。わたしの想像だが、配給会社の社内で「こんどはきみが付けてみろよ」みたいな感…

日本人が描くよりも子細な日本 KUBO/クボ 二本の弦の秘密 (2016年製作の映画)

4.2この映画には、サムライが出てきます。三味線とじょんがら節が出てきます。そりゃ姓だろ、とツッコミたいところですが、久保というヒーローが出てきます。時代不明瞭ですが、十二単(じゅうにひとえ(らしきもの))の母が出てきます。色紙と折り紙が出て…

ブロックバスターかつアートハウス 七人の侍 (1954年製作の映画)

5.0現代を生きるわたしたちがシェイクスピアを読んでも、そこに普遍性を感じない。けっこうややこしいストーリーを持っていて、むしろ一風変わったドラマに感じられる。でも黒澤明には普遍性を感じる。全部入っている気がする。元となるものがそこにある気が…

ビリーマックがスパイに MI5 消された機密ファイル (2011年製作の映画)

3.8ビルナイをはじめて知った時すでにシニアだった。ベテランではあっても映画は後発だったのかもしれない。あるいは世代によってそう見えるのかもしれない。まるで笠智衆のように、最初から老人だったのである。 しかし、知ってからは多くの映画で見た。と…

進化を続ける韓国映画 パラサイト 半地下の家族 (2019年製作の映画)

5.0近年の日本映画は韓国映画の影響を受けている──と思う。それが表明されたことはなく、表立った潮流をつくってもいないが、なんとなく──、時には瞭然と、そう思う。影響を受けたのはノワール的空気感で、ここ数年のあいだにみるみる李相日風な映画が増えた…

素人が俳優を使って撮った未編集の群像劇 菊とギロチン (2016年製作の映画)

1.0時代の表現が拙くて現代人が昔の服を着て時代劇を演じている感じがありました。衣装もまっさらで庶民の底辺感が欠けていたと同時に、あからさまなセット、間に合わせなロケーションにもげんなりしました。 活動家の闘争、その躍動を描き出そうとしている…

たしかに構造はショーンオブザデッドミーツララランド アナと世界の終わり (2017年製作の映画)

2.8ララランドには功罪があって、素敵な映画だった一方で、のちのミュージカル映画の敷居を上げてしまった。生やさしく上がったのではなく、とんでもなく上げた。ララランドを見たならそれがどれだけ無理レベルかおわかりになるだろう──と思う。 それでも、…