津次郎

映画の感想+ブログ

魅力的すぎるふたり マリッジ・ストーリー (2019年製作の映画)

 マリッジ・ストーリー

4.5
TEDのネット配信でアダムドライバーの講演を聞いて感動したことがある。
とんとん拍子な印象をうける俳優だが海軍を経てジュリアードに学んだ。
その来歴を語っているのだが、鷹揚で理知とユーモアに富み、ゆたかな人間性が見えた。

かれはおそらくFrances Haで初めて見た。
それからスターウォーズや沈黙やパターソンなど──おや、ここにも──という感じで諸処で見た。
バームバックもジャームッシュもスコセッシも、ルーカスフィルムも彼を選んだが、起用される理由は明瞭だった。とても魅力的な俳優だと思う。

さいしょ造作の大きい人だと思った。背が大きい。鼻が大きい。口が大きい。耳が大きい。素朴で飾り気がなく、ハリウッド風のオーラをまとっていない。美男だが、容貌魁偉でもある。異彩があり、人混みに埋もれない。

加えて、ヨハンソンに関しては、ブロックバスターな大作でしか見ていなかったせいで、この映画で巧者なことを知った。
なんなんだ、やたら演技派じゃないか──という感じ。まったく目鱗だった。
普通人を演ると、ほんとに普通である。いじってない顔。ゆるい涙腺。目尻や鼻梁に寄る小皺。ナチュラルでmotherlyで、誰からも好かれるのが解る。

したがって、この映画を見て、妙な言い方だが、スターがなぜスターなのかが解った。
どうしても魅力的な二人だった。

どこかで見たような話だが、離婚のすったもんだ話が、普遍性を帯びてしまうのは、仕方がない。
バームバックが得意とする話でもあり、よく練られてもいるが、登場人物の仕事や立場が、バームバック夫妻と近いので、身売りゆえのリアリティがふんだんに感じられた。

また、映画は当事者の争いであると同時に、それぞれの弁護依頼人リオッタとダーンの対決でもあった。
気の滅入る離婚話なので、依頼人の人物像は思い切った誇張をしている──ように感じた。
ノラ(ダーン)は年甲斐もなくフェミニンで、ジェイ(リオッタ)は旧弊な頑固親父である。どちらも、持論に凝り固まっていて、自己完結していて、すごく強い。

レイリオッタはサムシングワイルドから惹かれている。饒舌になって紅潮してくる様子が笑えた。強面とトロい滑舌が好きだ。およそ世界一分かり易い短気顔で、高揚すると、こめかみに漫画チックな『井』が浮かぶ。
ふたりとも主役を食いそうな勢いだった。

ところで、きょうびの離婚は勘違いもしくは未成熟な結婚の末路が多い──ような気がする。
財産ではなく感情について、この映画のように、しっかりと向き合って争うことは、減っていくのではないだろうか。が、激しく争うのは相手のことを重んじているからに他ならない──愛に対して真摯な人たちだと思う。だから、こういう話は、自分のお粗末な離婚と比べてしまうせいで、なんかまぶしい。