津次郎

映画の感想+ブログ

華奢 スペンサー ダイアナの決意 (2021年製作の映画)

スペンサー ダイアナの決意

3.4

ダイアナ妃をクリステンスチュワートが演じているという映画の告知を見たとき、すこし驚いた。
(それはけっしてconsポイントではないが)スチュワートはおしとやかな感じでもなく、イギリス人でもない。
なんで英国王妃役を彼女に充てたんだろう──と率直に思った。

が、彼女の演じたダイアナ妃は批評家から絶賛された。
のみならず、じっさいのダイアナ妃を知るボディガードやロイヤルシェフから“過去にダイアナ妃を演じた俳優のなかでもっともダイアナ妃に近い”と称讃されたそうだ。

個人的には違和感のあるダイアナ妃だった。むろんじぶんは何も知らない素人だがスチュワートのダイアナ妃はなんか不自然だった。ただし、その不自然さがよかった。

──

80年代、ダイアナ妃は海をこえて日本でも連日報道された。小か中だったわたしも覚えている。立体感のある髪型がダイアナカットと言われてはやった。極東でもダイアナ妃はアイコンだった。

が、人気だったのは成婚から数年間で、不仲になってパパラッチに追われるダイアナ妃はあまり日本ではニュースにならなかった。(と記憶している。)

映画Spencerは1991年のクリスマスを描いている。Spencerとはダイアナの生家姓だ。
チャールズとの仲はすでに冷めており、ダイアナは離婚および王室からの離脱を考えていた。

郊外の邸宅でご馳走に明け暮れるのがクリスマスの王室恒例行事になっていて、邸に来たとき体重を量って去るときまた量る、体重が増えているとしっかりクリスマスを楽しんだことが証明される──という伝統なのだそうだ。
翌26日は雉撃ちのための専用雉がいる野原でチャールズとウィリアム&ハリー王子らは雉撃ちに興じることになっている。

ダイアナはそんな慣例と規則だらけの息苦しい王室ライフに辟易している。パパラッチを避けるため籠もっていなければならず、愚痴や侍女への発言、一挙手一投足がチャールズやエリザベスに報告される。豪奢な生活だが内実は牢にいるようなものだ。そんな窮屈な生活のなか、彼女の生き甲斐かつ味方はふたりの息子ウィリアムとハリーである。

──というコンポジションが描写されていく。多少アレンジはあるが実話をベースにしているそうだ。

前述の通りスチュワートが高貴なイギリス英語を話すのが似合っていなくて面白かった。
ちなみにわたしは英語をまったく解っていない。それでもスチュワートがダイアナ妃を模している気配は可笑しかった。

だから海外評でも、さぞかしスチュワートへの違和感が表白されているのだろう──と思った。
が、ほぼ無かった。

参照したのはRottenTomatoesだが、批評家の総意を端的にまとめると、描写はやり過ぎなところもあるが、スチュワートの演技力に支えられた──というもの。誰もが彼女の演技を称讃し、実際主要賞レースでノミネートされ幾つかは獲っている。

わたしもスチュワートの演技に文句はない。ただし彼女がダイアナ妃なのが妙だった。語頭が強くなる口調と前髪から覗くように上目遣いするダイアナ特有の仕草も真似ていて、それが上手ではあるのだがパーソナルショッパーやキャンプXレイやトワイライトのスチュワートが演じていると思って見るとやたら可笑しいのだった。いい意味の違和感だった。

imdb6.6、RottenTomatoesは83%と52%で批評家とは真逆にRottenTomatoesの一般評にはスチュワートの演技をさげる評もけっこうあった。
少なくない一般評が(彼女のセリフが)ささやきだと不平を述べていて、こちらは非英語圏だから字幕があるので助かったが、確かに語頭だけ聞こえるようなしゃべり方だったと思う。
また(一般評には)抽象表現への戸惑いもあった。Pablo LarraínはときとしてBrady Corbetのような軋み表現をするので、そのアート値が賛否を分けたと思われた。

抑圧されたダイアナはしばしば躁的な行動をとり、それを王室は歓迎せず擁護もしなかった。
あらためて年譜を見るとダイアナ妃の事故死は1997/08/31。映画はそれより6年ほど前の出来事だが、縁あってプリンセスオブウェールズになってしまった彼女のはかりしれない苦労がしのばれた。

『1983年彼女はニューファンドランド州首相のブライアン・ペックフォードに「ウェールズ王女としてのプレッシャーに対処するのは非常に難しいと感じているが、それに対処する方法を学んでいる」と打ち明けた。』(Wikipediaダイアナ妃、ウェールズ王女より)

ダイアナ妃のときも離れてからもホームレス/麻薬中毒者/高齢者/若年の貧困/エイズ/ハンセン病/癌・・・あらゆる弱者や疾病にたいする基金/募金を主導する慈善事業家で、どんな人にも分けへだてなく接して、誰からも愛された。

『彼女はエイズ患者との身体的接触を嫌がらず、そうする最初の英国王室人物となった。1987年、彼女はエイズ患者の偏見を払拭するための初期の取り組みの一つとして、エイズ患者と手を繋いだ。』(Wikipediaダイアナ妃、ウェールズ王女より)

博愛な人だったのにパパラッチに追いかけられて亡くなった。英国民の怒り悲しみはいかばかりだったことだろう。