津次郎

映画の感想+ブログ

呪われた老人の館(2021年製作の映画)

呪われた老人の館

2.7
呪われた老人の館って失敬な邦題だなあ。

バーバラハーシーにひかれて見た。バーバラハーシーは近年だとブラックスワン(2010)の厳格な母親役だろうか。来歴を見ると1969年から出演作があるが、80年代に中・高校生だったわたしにとってはハンナとその姉妹やエンティティや最後の誘惑のひとだった。いずれも記憶ベースだが、エンティティは霊におかされる──という当時少年だったわたしをおおいにまどわせたホラーだった。最後の誘惑はスコセッシなのだが、デフォー演じるキリストにとっての誘惑とは何か──なんのことはない、マグダラのマリアの肉体=バーバラハーシーでした──という話だった。
バーバラハーシーは脱げるひとだった。

ハンナとその姉妹はウディアレンの代表作とされている。じぶんはむかしからウディアレンがきらいだった。あの頃、権威主義的な/おしゃれな批評家がこぞってウディアレンを褒めていた。ウディアレンがわかるなら映画通──ってな気配だった。なまいきだったので、その様相がいやだった。いい映画だったが権威主義に反抗するためだけに──きらいだった。ウディアレンにとってはとばっちりだった。)

エロスがいけるポジションとしてはシガニーウィーバーに近いが、もっとアート寄りで、いい監督に起用されアワード歴もばりばりにあった。なのに霊におかされる役もやる──泥臭い根性もあった。肉体派なのに知的かつ庶民的でもあった。希少な立脚点を確立していたと思う。

ブラックスワンの“母親”役には老いや我心の醜悪を露呈するような見せ方があったと思う。それができるのもバーバラハーシーだったからだろう。老いても精力的で、こんなとこ(と言っちゃなんだけど)に出てきて、自ら老人施設に入るという役を演じている。私的にはインシディアスを見たのもこれを見たのもバーバラハーシーが出ているからだった。

(以下ネタバレあり。)

もりあがらないホラーだけど、一点、闇落ちするのが楽しかった。
ふつうはさいごに「悪」はやられる──のだが、やられるいまわの際に悪が「おまえこっちにこない?」と誘って「いきます!」と答えて主人公が悪へと化してしまう。

具体的に言ってしまうと、古くて懐かしいBruce Davisonと老婆ふたりの悪老三人衆は、老人施設に入居した老人たちの生を吸い取って、永遠の命を謳歌していた。だがハーシーと孫のチームにしてやられて、樹の精にBruce Davisonは命を吸い取られる。残った老婆ふたりが全力で「ねえ、あんたこっちにおいでよ」と誘う。わたしはてっきり「闇へ落ちるもんかキリッ」と言って断ると思っていた。が「いきます!」と言って老精を吸い取る闇の権化となり、毎晩踊って永遠の命を堪能する──という話。なんかよかった。