津次郎

映画の感想+ブログ

ザブラックオニキス テトリス (2023年製作の映画)

テトリス

3.8

Tetris (film)のwikipediaに──

『2023年のインタビューでアレクセイ・パジトノフはこの映画は「実際に起こったことの実際の伝記や再現ではなかった」が、それは「感情的にも精神的にも十分に近く、非常に正しいものであった」と認めた。』

──と書いてあった。

つまり映画とじっさいに起きたことには違いがあるにしてもだいたいこんな感じだったとテトリスの作者パジトノフ自身が認める映画だった。

もっとも印象的だったのはタロンエガートン演じるBullet-Proof Softwareの創始者ヘンクロジャーズが、任天堂オブアメリカで開発されたばかりのゲームボーイの同梱ソフトをすすめる場面だった。

彼はこう言ったのだ。

『ゲームボーイを子供に20万台売りたいなら同梱はマリオでいいでしょう。だけど百万台のゲームボーイを全世界のあらゆる世代に売りたいなら同梱はテトリスです。』

この言説はテトリスという“発明”の特質をとらえていると思う。
1984年から今日(2023年)まで世界で5億コピーを売り、なお人気がおとろえていない。今なおグラフィックや効果音を盛ったテトリスをする人が大勢いるし、俗におちものと呼ばれる亜種もテトリスが元になっている。そんな世紀の発明が旧ソ連で開発されたとなれば版権で揉めるのは当然であったろう。あたかもスピルバーグのブリッジオブスパイのような駆け引きの応酬だった。

主人公のモデルとなったヘンクロジャーズ氏はもともと冒険的な人物でありウィキペディアの説明によると──

『オランダのアムステルダムに生まれた後、オランダに11年、ニューヨークに8年、ハワイに4年、日本に18年、サンフランシスコに7年、ハワイに7年と、様々な場所に居住していた。スタイヴェセント高校にてコンピュータプログラミングに出会い、ハワイ大学にてコンピュータ・サイエンスおよびRPG形ゲームの勉強をした。』
(ウィキペディア「ヘンク・ブラウアー・ロジャース」より)

──という流転する地球人というタイプの人で、且つPC-8801を知る世代なら覚えておられる方もいると思うが国内初RPGゲーム「ザブラックオニキス」の開発者でもあった。

つまりロジャーズとパジトノフが東西を超えて肝胆相照らす仲になったのは二人とも有能なプログラマーだったからだろう。
当時ロジャース氏のBPSは横浜市に所在しており、任天堂もふくめてかなり日本が絡んでくる映画だった。

それもあって長渕剛と志穂美悦子の娘である長渕文音がヘンクロジャーズ氏の日本人妻アケミ役として出演している。

あちらのインタビューによると長渕文音はここ10年間のあいだにハリウッドで何百というオーディションを受けまくりようやく勝ち取った役がテトリスのアケミ役だったそうだ。
すなわち彼女の国際デビューでもあるわけだが訛りの払拭された英語を使い女優として独歩しており七光りに頼らないハングリーさに感心した。

一方で父母が長渕剛と志穂美悦子なんて、いずれも濃さと特異さの際立つふたりだから、なるほどその娘なら気骨もあろう──という納得もあった。眉がじつにサラブレッドだと思う。