津次郎

映画の感想+ブログ

封建的ではない珍しい戦争映画 この世界の片隅に (2016年製作の映画)

4.0
女性主人公の戦争映画なので気が滅入るのを想像していた。
貧しく、つましく、境遇に虐げられ、大切なひとが亡くなって、かわいそうで・・・それらを想像していた。

が、悲哀はあるけれど、ユーモアがある。日本の戦争映画で、脱力と滑稽さと自嘲のパーソナリティをもった女性を、はじめて見た。

負け戦なわけだから、どのみち不幸せになるのが、戦火の日本女性であり、その十把一絡げのヒロイン像が染みついているゆえに、個性的な自我をもったすずが、とても画期的に見えたわけである。

戦争映画のみならず、日本映画に描かれた女性──その広い視野でさえ、すずは、おそろしく独特なキャラクターだった。
加えて、かれらの銃後も画一的な描き方とは180度異なっていた。
封建主義が介入せず、すこしも男尊女卑におとしめない──優しさとリアリティがあった。リアリティを体現するために、かならずしも過酷や悲惨へ振る必要はないと、このドラマは言っている──はずである。

かんがみれば周作も水原も、日本映画に有り得なかった、粋とシャイと美意識をもった男であると思う。すくなくともわたしたちは戦時中の家庭に、封建的=亭主関白な様態しか見たことがなかったからだ。

見たことがないのは、キャラクタライズがなされたことがないから。現実は多様であるはずなのに、ドラマには典型が用いられるから──である。
すなわち、おおげさかもしれないが、この原作/映画は、第二次世界大戦中の日本人のキャラクターにはじめて人格を与えたドラマだった。そこに価値があると思う。

ただ、個人的に、戦災児だった野坂昭如に比べると、周到に監修されているとはいえ、戦争ものでフィクションというのは、ちょっと引っかかる。1917でラストにfor lance corporal alfred h. mendes/1st battalion kings royal rifle corps/who told us the storiesと出なかったら、ちょっと憂慮したかもしれない。