津次郎

映画の感想+ブログ

ブラッシュアップした ヘル・レイザー (2022年製作の映画)

ヘル・レイザー

3.1

ヘルレイザー全体で11作目だそうだ。見たことがあるかどうかも含めて覚えていないが、頭部全体がマチ針に覆われている“ピンヘッド”なら知っている。

wikiにあった言説だが、本作にたいするRottenTomatoesの総意は──
『数々の水準以下の続編を経て長年苦しんできたファンへの贈り物であるデヴィッド・ブルックナー監督の『ヘルレイザー』は、このシリーズを正しい軌道に戻すためのパズルの箱を解く』(wikipedia「Hellraiser (2022 film)」より)
──というものだそうだ。

納得する概説だった。お察しいただけると思うがこれはあらゆる“シリーズもの”の法則のことを言っている。(もちろんこの法則が当てはまらない大資本映画もあるが)13金でもハロウィーンでもバイオハザードでもチャイルドプレイでもインシディアスでもアンダーワールドでもスターシップトゥルーパーズでもSAWでもなんでもいいが、最初にエピックなものが作られたのちに“柳の下の泥鰌”を狙ってプロダクティブスタンスな続編がつくられる。

ひとまずのクリエイトが終わっている続編はクリエイティブスタンスになりにくい。たとえばヘルレイザーは11作品がつくられているそうだが進展ではなく焼き増しと言っていいものだろう。

そこで『このシリーズを正しい軌道に戻すため』に『数々の水準以下の続編を経』た後に一念発起してテコ入れしたものをつくるわけである。

シリーズになっているホラーが何作目かの数字や副題を外して正道なものをつくるときがある。スクリームもチャイルドプレイもハロウィーンもキャンディマンもそうやって原点回帰した作品をつくっているが、タイトルをヘルレイザーとした本作もそんな作品といえるだろう。──というのがRottenTomatoesの総意だった、という話である。

ヘルレイザーシリーズにおいて一貫してセノバイトのリーダー(ピンヘッド)を演じてきたDoug Bradleyという男性俳優がいるが、それが女性に変わったのも今作の注目ポイントになっている。

RottenTomatoesでも何人かの評論家がピンヘッドを演じたJamie Claytonを褒めていた。
しかしピンヘッドでいちばん偉いのは役者ではなくそれを何時間もかけてかれ/かのじょにほどこしたメイキャップさんだろう。

XMENに出てくる青皮膚に黄色目のミスティークを知っていると思うが何時間もかかるメイクに耐えてジェニファーローレンスの役者魂は立派だと賞賛されていたのを見たことがあるがたしかにジェニファーローレンスは立派だが、そういう何時間もかかるメイクというのはやはりメイキャップさんが偉いと思う。あるいはガモーラでもネビュラでもいいが時間がかかりそうなメイクというのはむしろスタッフの手柄だ。

特にピンヘッドなんて直立したまま何にもしない。あれでDoug BradleyがすごいとかJamie Claytonの演技がすばらしいという評論家はぜんぜんわかってないんじゃなかろうか。と個人的には思った。

セノバイトとは快楽と苦痛をつかさどる異世界の司祭みたいなもの。セノバイトたちはみな謂わば「コロすことなく極限まで苦痛を増大させた拷問をされているときの姿」をしている。
かれらは機械的なパズルボックスを動かすことで現世に呼び出すことができる。
セノバイトの造形とグロ描写がリアル。ブラッシュアップした気合いはじゅうぶんに伝わってきた。が、様式美ホラーというような帯域で、映画そのものより造形物やコロされ方や構造物のほうが見どころ。
imdb6.0、RottenTomatoes66%と58%。

wikiの概説に、過去にヘルレイザーをパスカルロジェが監督する予定があった──という記述があった。もしパスカルロジェがヘルレイザーを描いたらどれほど怖かっただろう。拷問を受けた殉教者=マーターズはセノバイトの姿と完全一致する。
しかも『ロジェは、プロデューサーが期待していたよりもはるかに深刻なトーンの映画を構想していた 。』(wikipedia「Hellraiser (2022 film)」より)そうだ。ひええ。
グロ耐性とはシチュエーションによる。たんにグロいのはいいが拷問を受けるというシチュエーションがじぶんにはむりで今もマーターズ(2008)がトラウマになっている。