津次郎

映画の感想+ブログ

ドント・ルック・アップ(2021年製作の映画)

ドント・ルック・アップ

3.3
カラフルな文字で彩られたタイトルロールはわくわくさせた。
切り替わりの速いカットで滑り出しがいい。
とんとん拍子で進み気分もあがる。

が、じょじょにたわごと感が増していく。
コメディなのはわかるけれど、笑いの質がアイロニカル。描写も狂騒的でエゴイスティック。そのブラックユーモアがリアルな肌感のある監督のタッチと不協和してくる。

票取りだけの大統領や、マザコンの首席補佐官や、非科学的なインフルエンサーに地球の運命を託す展開にじょじょに嫌気がさしてくる感じ。
総じてまともじゃない側の人物描写がやりすぎ。
かれらと、まともな人物との落差が興醒めにつながっていた。と思われる

ただし。
お金のかけ方がものすごい。
こんな(と言ったらなんだが)話を語るのにとんでもないキャストと物量が投じられている。

さらに挿入されるイメージ/点景がVivid。
マネーショートでも感じたが、多種多様な「実際の映像」的な画を、矢継ぎ早に挿入して、ハッとさせる。アダムマッケイ監督の得意技だと思った。

筒井康隆みたいなスラップスティックな終末の話を、ばけものみたいな予算で映画にした──という様相だが、終末は愛する人と過ごしたいというエモーショナルな値と、ブラックユーモアで押し切る値が、同時に描かれていて困惑した。
結果として(個人的には)スベっている気がするが贅沢なキャストとボリュームに圧倒されたのは確かだった。

好かれ役も憎まれ役も全員上手。
個人的にいちばんよかったのはシャラメが出てくるところ。
スーパーのレジで腐っているケイトのまえにあらわれたボーダーの輩っぽい風情がすげえかっこよかった。男臭いキャラクタを見たことがないせいだろうか、この映画のシャラメは純情で男子っぽくてシンプルに魅力的だった。(万引犯だけどね。)

壮大な話。
たとえスベっているにしても、こんなもんつくれるのはアメリカ映画だけである。
じぶんの国に世界的スターが山ほど居る。役名「ライリービーナ」のライブシーンがわりと長くとってあるけれど、演じているのはアリアナグランデ。博士ディカプリオに研究生ローレンス。大統領はメリルストリープ。いつになく淫奔なブランシェット。体重もどしたジョナヒル。
見知った大スターが役を演じる楽しさ。地球の危機をアメリカだけが対処するAmerica Firstな展開さえ、違和感はまったくない。

米映画を見て、しばしば『戦後世代ではないし、もはや戦後でもないが、率直に言って、よくもまあこんな映画をつくる国と戦争をやったもんだ──と思った。』と評することがあるが、これもそんなことを思った。

投じられた物量に圧倒され、それが主観的な感想に勝ってしまう──という感じ。そもそも加入者のとある晩を楽しく過ごさせるネットフリックス映画として、なんの不満がありますか、てな映画だった。

<後日記>

ところで大酷評大会と化した日本映画、大怪獣のあとしまつ(2022)のウィキペディアに以下の記述があり首肯するものがあった。

『ヒナタカは本作と好対照を成す作品として『ドント・ルック・アップ』を挙げ、「あり得そう」な人間の行動をブラックコメディとしてシニカルに描いた『ドント・ルック・アップ』に対し、本作は「終始リアリティーレベルに問題がある」上に、ストーリー展開が単調で結末も中途半端であったと分析した。』