津次郎

映画の感想+ブログ

やるせない 英雄の証明 (2021年製作の映画)

英雄の証明

4.5

別離/ある過去の行方/セールスマン/誰もがそれを知っている──を見たことがあるがいずれも進退や善悪の定まらないどっちつかずの状況に撞着して「じゃあどうすりゃよかったんだよ」と言いたくなるような人間の深いところを描いてみせる作風だった。

といって不条理にはせずあくまで現実社会の範疇でどうしたらいいかわからない両義へ持ち込むのがアスガル・ファルハーディー。
すべての作品を貫通するブレない作家性にも毎回感心させられるし、社会派なのにスコセッシみたいに豪腕な演出力で引きつけるのも特異な長所。
別離とセールスマンでアカデミー国際長編映画賞(旧称:外国語映画賞)を二度もとっている。

このアスガル・ファルハーディーやアンドレイ・ズビャギンツェフやクリスティアン・ムンジウやヌリ・ビルゲ・ジェイランの映画を見ると、日本の監督に監督なんてほざいてほしくなくなる。比較しようのない品質──そんな映画。

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昨年(2022)テヘランでヒジャーブの不適切な着用でつかまった女性が亡くなりそれに反発する市民運動が活発になった。
関連してセールスマンに出ていた俳優Taraneh Alidoostiが拘束されたというニュースが出て国際的な懇請につながった。

Taraneh Alidoostiはセールスマンでしか見たことがないが丸顔かつ童顔でよく覚えていた。彼女はやがて保釈された。できればファルハーディー監督ではなく軽いコメディで笑った顔も見たい。

アスガル・ファルハーディー作品に出ていたレイラ・ハタミやベレニス・ベジョやTaraneh Alidoostiを見て「やっぱ人間、濃い人種のほうがきれいだな」と思ったが、女性が濃いなら男性も濃い。この英雄の証明の主人公は影武者や乱に出ていたときの仲代達矢にそっくりだった。

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正直者だが不運で刑務所にはいっているラヒム。恋人が拾った金貨を持ち主に返していったんは英雄視されるが、さまざまな事情が絡まって混迷へ転げ落ちていく。・・・。

ラヒムの息子は純真な子だが吃音がある。かれら父子が困り果てる姿はまるでデシーカの自転車泥棒を見ているようだった。ご覧になった方はデシーカの自転車泥棒のようだというたとえにご同意いただけることだろう。どうしたらいいのか解らなくて気持ちをかきむしられるところへ筋をもっていく。それをつむぎだす作家性に驚嘆した。

IMdb7.5、RottenTomatoes97%と83%。スパイクリーが審査委員長でデュクルノーのチタンがパルムドールをとった2021年のカンヌで2位(グランプリ)をとった。

ファルハーディー作品を見て毎度思うのは「真剣に生きているんだな」ということ。じぶんだって真剣に生きていないわけじゃないが、映画用の設定とはいえ絡み合う事情に恐れ入るし、ダルデンヌ兄弟を見た感じと似て映画内の人たちはほんとに真剣に生きていてそれが伝わってきて神妙な気分になるのだ。