津次郎

映画の感想+ブログ

長い一日 アシスタント (2019年製作の映画)

The Assistant

3.3

映画製作会社で働く事務職員の一日を描く。
念願の映画製作会社に入社したプロデューサー志望の主人公。
まだ暗いうちから出勤するほど意欲的だが業務はストレスの泥濘に没している。

──

たとえば清掃作業員やったことありますか。
正職でもアルバイトでも大きめの企業で清掃員やると空気になれる。

企業では多くの人々が言葉を交わしながら行き交っている。
誰もが仕事の話に夢中で仕事以外の共通の話題で談笑することもある。
当然だが清掃員はそれらの業務にも話題にも関わりがない。

あるいは逆の立場でもいい。大きめの企業につとめていれば日毎やってくる知った顔の清掃員がいるだろう。彼or彼女の名前を知っていますか。いや、どんな声なのか聞いたことがありますか。

“蚊帳の外”ということば通り同所勤務でありながら存在が度外視される。もちろんその処遇に問題はない。委託業務先は黙って掃除するのがしごとだ。

ただし清掃員を軽んじて見ていないだろうか。
年配男性や学歴を有する男性には若い女性を見下してみるタイプが多いことに加え、エッセンシャルワーカー(現場仕事)を軽侮する傾向が強い。

レジ係にすげないもの言いするじじいやサラリーマン、よくいるよね。

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映画The Assistantのテーマは疎外感とMeTooの2つ。

疎外感とは上述したような社内で暗黙に見下されている存在のことであり、清掃員ならば部外者扱いされても仕方ないが、彼女はAssistantなのに社内の下っ端として軽んじられている。

もうひとつは会社がワインスタインのミラマックスのようであること。作り話だが、2022年のShe Saidのような告発映画の側面を持っている。

ワインスタインが巧妙だったのは捕食する女性と仕事をする女性を明確に分けていたことだろう。主人公は仕事をする女性側に仕分けられ懐柔されていた。

The Assistantの主人公は会長が田舎から拾ってきた若く綺麗な子を事務員に据えて囲っていると告発するものの一蹴されたうえ「きみは会長の好みじゃないから大丈夫」と言われてしまう。

これを解りやすく置換すると「喜多川会長が新人の男の子を凌辱しているところを目撃しました」と上司に談判したら、馘首と引き換えに口止めされたうえ「きみは喜多川会長の好みじゃないから大丈夫」と言われた、ということだ。

告発は却下されたが、職は保たれた。その形容しがたい気持ち、閉塞感を暗く気が滅入るリアリティで描いてみせた。

imdb6.4、RottenTomatoes93%と25%。

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一日は同僚の発言「心配ない、あの子は彼をうまく利用する、安心して」で終わる。

置換すると「あの新人の男の子は喜多川会長に夜な夜な肛虐されているけれどその寵愛を利用してのし上がるでしょう」という意味になる。

職員たちは保身とじぶんの良心をなだめるために会長の捕食を希望的観測でとらえる。

たとえばタランティーノは世に出た恩義もありワインスタインのセクハラ行為を黙認していた。ワインスタインのことを「ハチャメチャな親父のような存在だった」と言い、彼の犯罪をじぶんの納得できる解釈に変換していた。

野望を持った者が犯罪行為を見つけたときどうするか。という問題がある。とりわけ告発するとキャリアがおじゃんになる場合どうするか。

ただThe Assistantは告発よりも閉塞感に重点があったように思う。2019年、MeTooとコロナの狭間の苦い映画。