津次郎

映画の感想+ブログ

ヤクで成長 ビューティフル・ボーイ (2018年製作の映画)

ビューティフル・ボーイ

3.7

一定期間、鎖かなにかで繋いでおきゃいいのに。とは思う。
人道的ではないが嘘ついてでも裏切ってでもなんとしてでもやるのがアディクトであるなら繋いでおくのが確実でしょうに。

──と思ってしまう薬物依存の様子を描いている。

息子のニック(シャラメ)はリハビリ施設に入っては脱出し、クリーンになったと思えばまたやりだし、父デヴィッド(カレル)は信じては裏切られを、幾度となく繰り返してきた。

デヴィッドは離婚しており再婚相手がいるが家庭は裕福。
新しい母はアーティストで、義弟妹となるちびたちは天使のよう(弟はSweet Toothだよ)で、邸宅は趣味がよく、豊かな自然に囲まれている。
ニックは父母からも義母からも愛され、演じているのは美しいシャラメ。

端から見ると彼がドラッグへはしらなければならない生活環境上の欠損はひとつもない。

The Smashing PumpkinsにTryTryTryという曲があってMVをよく覚えている。
末路はあんな感じなんだろうと思うが、映画はきれいな絵面で構成されている。
編集過多で、時間軸がズタズタと言っていいほど交錯する。
素直だった幼少期と、救いようのないアディクトになった現在が絡まり、父の苦悩を体感することができる。

シャラメは演技がじょうずでがん決まりのハイになったところも真に迫っている。
きれいで線が細い人だがイケメンをかなぐり捨てて踏み込んでくる。
父役は最初からカレルだったがニック役は当初Will Poulterが予定されていたそうだ。が、200以上のオーディションリールから最終的にシャラメに決まったとのこと。

薬中を体現するのにシャラメの痩身が活かされているが撮影は過酷でwikiに以下のような激白があった。

シャラメは入院シーンの撮影の数週間前に減量するよう指示され、その後、残りの撮影をこなすために休養して回復した。シャラメは、撮影中に何度も医師の診察と危機一髪があったことを明かし、「心は演技をしているとわかっている。でも、体重が20キロも落ちて、Tシャツ姿で8テイクも雨の下にいたら......身体は演技をしていることに気づかないんだ」

同監督で、英The Eight Mountains、伊Le otto montagne、邦帰れない山(2022)という映画があって個人的にすごく感動した。まっとうでむりがなくて音楽も編集も撮影も絵のセンスもいい。そして普遍性のある父子の葛藤をすくいとっている。これもそうだった。状況はぜんぜん違っても描かれる家族には根底で共感できるものがあると思う。

実話で、父デヴィッド・シェフが書いた本と、息子ニック・シェフが書いた本を組み合わせて脚本を構築したとのこと。
映画では省略されているが、ニックは異性愛者だが薬代をかせぐためゲイのハスラーをやっていたそうだ。