津次郎

映画の感想+ブログ

ねっとり血糊のゴア満載 哭悲/The Sadness (2021年製作の映画)

哭悲/THE SADNESS(字幕版)

3.4

ロブ・ジャバスはカナダ人ながら台湾の映画監督&アニメーター&ライターだそうだ。

強烈なゴア要素満載の感染症ホラー映画。
ShiversやRabidの時代のクローネンバーグみたいな淫靡な要素も珍しく、やりすぎのサディズムとマゾヒズムがコメディにもなっていて台湾映画でありながら白人のブラックユーモアがあった。
血糊の粘性は台湾、亜熱帯という感じ。こんな片栗粉を混ぜたような血糊は西洋ホラーには使われない気がする。
The Sadnessと命名しているがロマンスは副産品で目標は猥雑なカオスになっている。

感染者の顔つきの気味悪さと執着心に焦点がきていて、映画のキーパーソンになるのが中年サラリーマンを演じたジョニー・ワン(王自強)。どこまでも追ってくるえろじじいのキモさをあますことなく引き出して熱狂的な楽しさにもっていく。

『私はゾンビ映画は書きたくない、つまらない、もうやり尽くされた、これ以上何を言うんだと思った。それで、少ない予算で限界に挑戦する方法を考え始めたんだ。そして、彼らを本当に残酷でサディスティックにしたらどうだろうと考えた。彼らはサディストで、他人を傷つけることに喜びを感じる。それで思い浮かんだのが、数年前の『Crossed』というコミックだった。その漫画を見て、これはクールだ、でもこれはちょっと違うぞ、と思ったんだ。彼らは十分に話していないし、十分に自分自身を表現していない。だから、印象に残る悪役を登場させたり、アイデアを出したりしたんだ。』
(ロブ・ジャバス監督へのインタビュー記事より)

ロブ・ジャバス監督がインスパイアされたというCrossedはアメリカのホラー漫画。

『この物語は、被害者が最も邪悪な思考を実行するようになるパンデミックに対処する生存者を描いている。ウイルスのキャリアは一般に、顔に現れる十字架のような大きな発疹から "クロスド "と呼ばれている。この伝染病は主に体液を介して広がるが、クロスドたちはそれを武器に塗ることで効果的に利用している。また、レイプや咬みつきなどの直接的な体液接触によっても伝播する。映画『28日後』など他の架空のゾンビや狂気ウイルス流行との大きな違いは、クロスドが殺人狂の暴力的サイコパスに変身しても、基本的な人間レベルの知性は保持していることである。このシリーズでは時折、クロスした者が感染前に持っていた技能を保持していることが指摘されるが、ほとんどの者は単に、凶悪な衝動に即座に関係しないことをする忍耐力や正気を欠いているだけである。』
(wikipedia、Crossed (comics)より)

この映画もCrossedのように、感染前に元からあった気質や願望や性癖が、感染によって強調かつ凶悪化してあらわれるようになっている。
中年サラリーマンは電車内でヒロインにちょっかいをだしている。すでにその時点でホラーなんだがおっさんは自覚していない。
こうした日常に存在する無自覚人間の「箍」(たが)が外れてしまったとき、どうなってしまうのかという恐ろしさ──がおそらくこの映画の肝ではなかろうか。

ジャバス監督はI was trying to tap into that fear of unprovoked violence.(私は、いわれのない暴力に対する恐怖を利用しようとした。)と言っていて、なんでもない日常から突如として豹変し襲ってくる人──による恐怖を描き出そうとしていて、それが効いている。

とりわけ最初の段階でやってくるお婆さんの感染者がフライヤーの煮油をぶちまけるところや電車の密室状態で狂乱するところ。グロいとはいえ怖いという映画ではないがゾンビ亜種にもかかわらず存分に見せてくれる映画だった。