津次郎

映画の感想+ブログ

脱皮するお婆ちゃん レリック ー遺物ー (2020年製作の映画)

レリック ー遺物ー

3.5

月桂のカッコにsundance。見る前からわかりみがあった。
Natalie Erika Jamesの初長編。あちらでは初めての映画をホラーにするのが常道だが日本の“初監督作品”とは比べものにならない完成度にしばしば出会う。
さいきん見たのでもKate Dolan監督のYou Are Not My Mother(2021)、Parker Finn監督のSmile(2022)、Rose Glass監督のSaint Maud(2019)・・・初長編だがいいホラーだった。

ピータージャクソン大絶賛のPhilippou兄弟の初長編ホラーTalk to Me(2022)が話題になっている。(日本公開は2023年12月22日だそうだ。)
かえりみればアルバレスもピールもアスターもキャリアスタートは“初長編だがいいホラー”だった。今さら言うまでもないが、けだし演出家の力量が端的にわかる物差しがホラーなのだった。

Relicはすごいホラーではないが作家の人となりや人生への溜息があらわれる佳作だった。たとえば(はちどりの)キムボラがホラーをつくったらいいホラーができるにちがいないという予感。ぎゃくにいえば荻上直子や蜷川実花や三島有紀子や河瀬直美がホラーをつくったらどうだろうというニュアンス。動機が創造性なのか自己顕示なのかという話。

Imdb6.0、RottenTomatoes92%と52%。ジャンプスケアもないしVFXもないし行間に込められたドラマなので一般評はこぼしたが批評家はprosが占めた。

『Relicには衝撃的な展開や仕掛けはなく血なまぐささもない。Natalie Erika Jamesは普通の会話から恐怖と緊張を掘り起こすのが得意でスリラーの定石を使って親が徐々に衰弱していくのを見る恐怖という単純だが衝撃的なものを描いている。』
(Wikipedia、Relic (2020 film)より)

娘にとっての母、孫にとっての祖母、それぞれの観点が描かれる。落ち着いた質感で母娘の葛藤や認知症を語りつつ、不気味な何かに変容していく母(祖母)。雰囲気も語り口もYou Are Not My Motherに似ていたがホラーというより家族ドラマの印象をもった。“女性らしい”という形容は今では偏向になるのかもしれないが女性らしいホラーだと感じた。

人生でおこる現象はホラーに仕立てることができる。Natalie Erika Jamesが認知症の母を介護した体験が映画Relicになったのは間違いないし、もとより創作とは体験にもとづいてそれを脚色したものだ。日本でも変な背伸びなんかしないでじぶんの体験にもとづいたホラーづくりから映画キャリアをはじめればいいのに──と素人としては思うのだった。