津次郎

映画の感想+ブログ

妙味 ラン・スイートハート・ラン (2019年製作の映画)

ラン・スイートハート・ラン

3.3
専門家が専門外のことをするとき妙味があらわれます。
たとえば和食職人がフレンチをつくるとおもむきのある滋味が加わったり──とか、クラシック奏者がポップを演奏すると妙に律儀だったり──とか・・・、
──ニュアンスが伝わるかわかりませんが、とある分野の求道者が違うことをするとき、意図していなかった妙味が浮かんでくることがあります。

Shana Festeは2009年にThe Greatestという映画を監督しています。ピアーズブロスナンやキャリーマリガンが出ていて、映画も記憶に残っていました。監督の来歴にはファミリーorロマンスしかありません。
ひとつのジンクスだと思いますがホラー門外漢がホラーをつくると妙味があらわれます。(もちろん腕の確かな人に限りますが。)

やはりとても変わった映画でした。
敵となるモンスターのカテゴリーがわかりません。狼男か、悪魔か、幻体か。陽で弱体化するのは吸血鬼のようですが、姿がわかりません。いちどだけ変身シーンがありますがそれは主人公シェリー(Ella Balinska)の悲鳴だけで表現されます。

映画のメッセージは、プレデター(=女性を襲う男)を糾弾することでしょう。リベンジホラーの形態をかりながら、Promising Young Woman(2020)のようにフェミニズムを暗喩していると思います。

原案は共同執筆ですが監督自身が書いています。
海外の情報に──Shana Feste監督はトラウマとなっているデートと性的暴行の犠牲者であるという彼女自身の実体験にもとづいて原案・映画を作成した──とあり、納得しました。

実体験を、他人に伝わりやすいホラーに変換・モディファイしているところがクリエイターらしさだと思います。
フェミニストは概して直情型が多いのでこうした理知には感心します。なんでもそうですがエンタメにしなければ何も伝わりません。

ただし、何となく掴みどころのない映画でもありました。街じゅうを駆け回ってタンポンを探す映画──と言っても過言ではなく、リベンジモードへ入ってランボーのようにヘッドバンドをするのは何となく滑稽でした。

しかしElla Balinskaはまるでなめらかなトフィのよう。やみくもに遺伝子の格差をかき立てる美しい女でした。