津次郎

映画の感想+ブログ

非倫理 ねえ!キスしてよ (1964年製作の映画)

ねえ! キスしてよ [DVD]

3.0
女たらしだけど有名な歌手に自作曲を売り込むために代理妻をたてて夜伽をさせようという話。

ビリーワイルダーなのにびっくりするほど退屈ですw。(個人的には。)

アパートの鍵貸しますなんか何度も見て何度も同じところで楽しくなってまた見たくなるのに、これはぜんぜんです。

ふしぎなものです。

難航したキャスティングで、バランスが希釈されてしまったのかもしれません。

英版wikiからの情報ですが──
オーヴィル役はジャックレモンを想定して書かれましたが断られピーターセラーズで撮り始めたものの撮影中にセラーズが心臓発作で入院しレイウォルストンで撮り直したそうです。

ポリー役はモンローを念頭に書かれましたが1962年にかのじょに死なれ、ジェーンマンスフィールドを充てようとしましたが妊娠が発覚し、巡ってキムノヴァクになったそうです。

これらのキャスティングの変遷を知ってしまうと確かにレイウォルストンでは弱い感じがしてきます。またノヴァクはtrailer trashにしては高貴すぎる上、声が低すぎます。

また公開当時、自由すぎる倫理観が下品だと叩かれています。

貞淑な妻というポジションのゼルダ(Felicia Farr)はけっきょくディーノ(ディーンマーティン)とやってしまうわけですし、ポリーもオーヴィルとやってしまいます。
いずれも示唆的表現に過ぎませんが、たしかに、あまりにもさらりと姦淫してしまう映画でした。

なんにしても最大のアンバランスはノヴァクが数十ドル握らせたら寝る女にはとうてい見えないことでしょう。

あて書きされたモンローが亡くなり、近似するセールスポイントで売っていたマンスフィールドにいったところまではわかりますが、ノヴァクはぜんぜんちがう“ミステリアス”タイプです。

逆に言うとtrailer trashみたいな蓮っ葉な女を演じさせて下品にならないモンローがいかに希少な存在だったか──ということでもあります。ようするにモンローが演じなかったゆえに強引なセックス寓話になってしまったわけです。

狙ったのはアパート~のように軽いコメディですが、Kiss Me, Stupidは結果的に愛するふたりの間では(多少の)姦淫が妨げにならない──というステートメントを内包してしまっています。そんなことを言いたい映画ではなかったのに、とても大らかな性観念の映画になってしまったのでした。

ひるがえってモンローもシャーリーマクレーンも他の男と寝てもそれが無効になる絶対的聖女値を持っている──ということ、だと思います。
けっきょくモンローで撮るべき映画を別人材で撮った──に尽きるような気がするのです。

ところで同wikiに──
『TV GuideのMichael Scheinfeldは、この映画を4つ星のうち3½と評価し、「カジュアルなビリーワイルダーファンと真の愛好家を分ける、映画的リトマス試験のようなもの」と評し、さらに「今になって振り返れば、ワイルダーの最も魅力的でオリジナルな映画の1つとして見られている」と述べた。』
──とありましたが、個人的にはそうは思いませんw。

ただしラスト、ちっこい乗用車でトレーラーを引っ張って行くポリーはとてもいじらしかった。

2022年、ノヴァクは存命で、絵や詩を書きながら静かに暮らしているそうです。