津次郎

映画の感想+ブログ

繁栄と没落 ブラックベリー (2023年製作の映画)

Prime Video:BlackBerry

3.3

ブラックベリーは①遊び場の崩壊と②恫喝が物言う社会および③最高責任者が重なる企業の弊害を描いている。

工学系オタクだったマイクとダグがカナダに設立したソフトウェア開発会社RIM(Research In Motion Limited)に野心的な実業家のジムが介入してくるところから話がはじまる。

原作となった著者はLosing the Signal(信号を失う)といい『BlackBerryの驚異的な台頭と壮絶な没落の裏にある知られざる物語』との副題が付いている。
概ね事実だがノンフィクションというわけではなく想像を交えた内幕が描かれているそうだ。

①遊び場の崩壊とはムービナイトがあるような暢気な会社がAndroidOSやAppleiPhoneと競争するような熾烈な市場に呑み込まれていく経過をコミカルに描いているところ。

②恫喝が物言う社会とはジム・バルシリーの攻撃性のこと。
こんにちではえてして人をおどしつける能力が経営能力だとみなされてしまうことがある。マネーの虎にでていた連中は軒並み事業に失敗しているのに令和にも同じような起業支援エンタメをやっていて、そこで見るのは大声でどなりつけて相手を圧倒するといった類のいわば“放送事故の愉しさ”に他ならない。

一時的に市場占有率をのばしたり数期間だけ業績を回復するというような短ければ強いトップというのは恫喝の才能によって立身することができる。アップルやマックの日本法人を歴任した名物社長はゴルフクラブで細君をなぐってタイホされた。ほんとはろくでもない人間であっても現代社会では勢いが“やり手感”を形成するのであり、いわばどやしつけるだけの役割を担った鬼軍曹タイプ上司がこの映画内にも再現されている。
それがCEOジム役グレン・ハワートンであり、強面のCOOチャールズ役のマイケル・アイアンサイドでもあった。

ただし、ジムは攻撃的で道徳に欠ける人物として描かれているが、wikiにあったジム・バルシリー本人談によれば、スクリーン上のかれはほぼフィクションであり、RIM在籍時の姿とは異なる──と述べたそうだ。
にもかかわらずジム本人はこの映画を肯定的に受け止め、グレン・ハワートンの演技を見事だと賞賛した──ともあった。

③最高責任者が重なる企業の弊害とはブラックベリーがマイク・ラザリディスとジム・バルシリーのツートップであったこと。
マイクは経営のことがわからず、ジムは自社製品にわずかな愛さえもなかった。したがってふたりは役割を分担していたのではなく、ただたんに割れて違う目的へ向かっていたにすぎなかった。

優れた開発者を食い物にしようとした金の亡者の話、とも言えるが、さいしょから沈没するとわかりきった船BlackBerryが沈没するまでのドタバタが描かれている。

imdb7.4、Rottentomatoes98%と94%。

海外評が異様に高いと感じた。批評家たちは活き活きとした描写やジムを演じたグレン・ハワートンのパフォーマンスを誉めている。が、私見ではジムの不愉快すぎる人物像のせいで楽しめたとは言いづらい。経営者は人をどなりつけなきゃならないときもあるが映画中のジム・バルシリーは利己的で横暴なだけだった。

余談だが、映画のなかに“不愉快な人物”がでてくることがある。元来それは映画の素の評価に加減されないはずなのだが、個人的には“不愉快な人物”のせいで点を減じてしまうことがある。(ひとつのことを万事であるとは思ってはいないが)BlackBerryの海外評をみて外国人は映画中の“不愉快な人物”に耐性があるのではないかと(なんとなく)思った。