津次郎

映画の感想+ブログ

リンジーローハンの恋愛コメディ アイリッシュ・ウィッシュ (2024年製作の映画)

アイリッシュ・ウィッシュ

2.6

2022年のFalling for Christmasに続くリンジーローハン復帰二作目という位置づけで監督やスタッフに共有がある。ベタな恋愛コメディになっていて、批評家のコンセンサスも『リンジー・ローハンが主演しているため『アイリッシュ・ウィッシュ』がロマコメの決まり文句を散りばめたような作品であることはほとんど気にならない』というものだった。つまり「人気者が出ているゆえにクオリティが問題視されないコンテンツ」と見なされている。

ローハンは37歳だが映画内ではティーンアイドルのような扱いで、言ってみればリンジーローハンのファン向け映画になっていて、アメリカのリンジーローハンの根強い人気がわかる映画だった。
しかしまだ37歳である。あきらかに「え、まだそんなに若いのか」という感慨があった。子役スタートの恩恵かもしれないが、逮捕や薬による入退院などで私生活が壊乱している時は、いかにも落ちたハリウッド寵児の印象だったが、健康的な復帰がローハンにたいする寛恕をもたらした。つまりローハンが元気に復帰してくれたことで作品のクオリティが容赦されるという現象をもたらしている。それが、批評家も述べた『リンジー・ローハンが主演しているため『アイリッシュ・ウィッシュ』がロマコメの決まり文句を散りばめたような作品であることはほとんど気にならない』──の意味でもあった。

そうは言ってもこのクオリティでずっともっていくのはもったいないし、観衆の寛恕が有効なのも三つくらいまでではなかろうか。零落から復帰してきた来歴がドリューバリモアに似ているがドリューバリモアはクオリティの高いプロダクトに多数出演して地位を確立したのであることを鑑みるに、リンジーローハンもロマコメから離脱するような別のアプローチを見たい気がした。しかし当人はロマコメの連作に乗り気で、wikiに以下の発言があった。

『私がNetflixやクリスティーナ・ロジャース、そして『Falling for Christmas』や映画の契約に関わっている人たちにとても共感したのは、ロマンティック・コメディ映画が少し消えてしまったように感じたからです。これは私が演技を始めた頃や、10代になって自分のものになってきた頃の得意分野でした。それを最高の方法で取り戻したいと思っています。映画の中での女性の自己発見も、幸せで楽しくて軽快な方法で素晴らしいことだと思います。本当に懐かしいですし、彼らは私と一緒に乗ってくれていたので、そこに焦点を当てています。』
(wikipedia,Irish Wishより)

さいきん自身の監督でロマコメ(What Happens Later、2023)に復帰した62歳のメグライアンも同じ齟齬をもっていた。おそらくメグライアン自身はロマコメ女王として、観衆はかつてのようなロマコメに復帰したメグライアンを見たいのであろう──と希望的観測をしたのであろうが、あにはからんや、かつてとは年齢が違う。
個人的には17歳よりも27歳よりも、37歳や47歳や57歳67歳の女性のほうが好みだし、何歳になっても恋愛映画に出てくれて結構だが、これは年齢の好みの問題ではなく、誰であろうと年相応の役というものがあるという話である。
よってローハンも『これは私が演技を始めた頃や、10代になって自分のものになってきた頃の得意分野でした。』と言っているが、それは間違いじゃないけれど、ロマンティック・コメディにこだわってしまうともっと重要な成分を見逃すんじゃなかろうか、と思ったわけだった。

リンジーローハンの持ち味は純情やナイーブの気配だと思う。じっさいの性格がどうであれ、笑顔に性格の良さがでる。それがミーンガールズの醍醐味だった。新バージョンでアンガーリーライスが充てられたのもキャラクターに天衣無縫さが必須だからだろう。その見た目からくる健康美を活かすのはいいが、誰であろうとロマコメをずっとやるわけにはいかない──という話である。

ところで母役でジェーンシーモアが出ていた。検索したら今(2024)73歳だった。ジェーンシーモアと言えばある日どこかで(1980)である。クリストファーリーヴのことも個人的にはスーパーマンではなくある日どこかでのワンシーンによって思い出される。
ある日どこかでという映画は「願えばきっと会える」という恐ろしくプリミティブで浪漫なプラトニックラブを扱っていて、たとえば、人と映画の話をしているときある日どこかでが好きですなんて言えない。なぜ言えないかというと、あまりにもロマンティックだからだ。おっさんがロマンティックな映画好きって言ったらやはりキモいわけで。
いわばロマンティックすぎるので個人ベストにも登らず秘匿される感のあるカルトだと思うが、丁寧な描き込みによって有りえなさと純情を覆い隠し、ひょっとしたら願えば会えるのかもしれないと錯覚させるほどの夢があり、それを実現させたのが強烈に想いを寄せる麗人=ジェーンシーモアの存在だった。
彼女は単に美術館にあった一枚の写真に過ぎなかった。しかし、そこに佇んで見入ってしまって挙げ句にその時代に行って会いたいと懇望されるほどの美貌だった。じっさい私生活でも結婚4回と離婚4回をしているそうだ。

ただし懐かしい顔が出てくる映画というものは旧世代がなんかしらreunionをやっている感じは否めない。というのはある。w

景観はいいしアジア人も黒人も交ぜているし、そつのないプロダクトだがもっと違うリンジーが見たいと思ってしまう映画だった。リンジーローハンのハスキーなときどきかすれるところがいいんだよね。
imdb5.3、Rotten tomatoes35%と42%。