津次郎

映画の感想+ブログ

不敵な笑み マダム・ウェブ (2024年製作の映画)

マダム・ウェブ

2.0

imdb3.8、Rotten Tomatoes12%と57%。

本作は批評家から『恥ずかしい混乱』や『史上最悪のコミック映画』などと酷評されている。海外の批評家は嘲弄的でアイロニカルな物言いが上手だがRottenTomatoesはさながらそれのコンペティションのような活況でほとんどの批評家が親指を下に向けつつ修辞を駆使してマダムウェブがいかにだめかを語っている。なかでも口を極めて糾弾されているのは脚本である。

ご覧のとおり4人の会話は弾みもしなければ笑えもしない。全員が主役を張れる当代きっての女優を揃えておきながらダコタジョンソンとシドニースウィーニーとイザベラーマーセドとセレステオコナーは最後までずっと初対面みたいなぎこちなさで口を開いても奥歯に物が挟まっているかのよう。
たとえばゴーストバスターズアフターライフ(2021)のCクーンとMグレイスとPラッドとFウルフハードとキム=ポッドキャストたちは、その活き活きとしたキャラクターに魅了されすぐに引き込まれるが、マダムウェブはスクリプトにも人物像にもそういう躍動がまったくない。

加えてマダムウェブ当人は救急救命士でありながらエゼキエルを易々としのぐ傍若無人ぶりでタクシー盗むしダイナー壊すし救急車で街じゅうをぶっこわしながら突進していく姿にどっちが悪なのかだんだん不安になってくる。

そもそもダコタジョンソンは親父似であり、昔のマイアミバイスを記憶しておられる方なら解るかもしれないがドンジョンソンは甘いマスクだが(個人の主観だが)善人面じゃない。ナイヴズアウト(2019)みたいな悪役のほうがしっくりくる。そのな~んか善人面じゃない感じが酷い脚本と相まって娘のマダムウェブに出てしまっている。ダコタジョンソンは別嬪ではあるものの(まったくもって失礼ながら)おまえどう見ても悪役だろという笑みをする。スウィーニーとマーセドとオコナーがそれを中和するかというとそれもない。きれいどころあつめてなにやってんだという感じだし、更に加えて状況描写もかなり変。ダイナー行ってしこたま食ってブリトニースピアーズが流れ出したら男達の前でお立ち台ダンスしちゃって、なんなん?。時代設定は2003年だが2003年てこんな変な時代だったっけ、なんかこうスクリプト以前の行動言動にも大いに問題があった。

マダムウェブの特殊能力は千里眼だが、じっさいはそうじゃなくて、とった行動に対する結果が見えるというもので、幾つかの未来を見てから最良の結果になる行動をとることができる。
これはネクスト(2007)に出てきたニコラスケイジと同じ才能で、かれはジェシカビールを口説くために最良パターンになる行動を選んでとるのだが、この、そう遠くないちょっとだけ先読みできる複合選択制千里眼の楽しさが、マダムウェブではちっとも活かされていない。
僅未来複合選択制千里眼というのはいわゆる短時間タイムリープでありこれはうまく見せると楽しいのはネクストのダイナーのシーン見た方ならきっとお解りいただけると思う。

結局、批評家たちのだめだしは、与えられている役者と設定をムダにしていることに所以している。マーベルという大舞台を与えられて仕損じたことも祭りへつながった。
とはいえ大駄作として記憶に新しいTom HooperのCats(2019)よりはましだし、何人か高評価している批評家もいた。
基本的に無害な失敗作である。
たんにいろいろと読み違えただけで怒りはおぼえない。
駄作だが嫌なところは一つもなかった。

映画には日本映画のように駄作であるばかりでなくひどい怒りをおぼえてくそみそにしたくなる映画がある。日本映画のなかにはほんとにくそをえがいてしまううましか監督もいる。

そういう日本映画とくらべたらかわいいものだし、およそプロローグであり、マダムウェブおよびトリオがどのようにして成り立ったのか──的な映画であるがゆえに、説明を映像にするための苦心が見えたことも否めない。魅力的な女優を使ってここまで魅力を削ぐのも逆に贅沢な仕様──と見ることもできなくはなかった。