津次郎

映画の感想+ブログ

定番らしさ もうひとりのゾーイ (2023年製作の映画)

もうひとりのゾーイ

3.1

恋愛ドラマみたいな甘美なシチュがきらい、クールな女を決め込んでいたマッチングアプリの開発者ゾーイ。そんな彼女が意図しない加害からの記憶喪失からの勘違いからの紆余曲折を経て、あり得ないと思っていた一軍男子といい感じになる。先蹤なメタファーがいっぱい詰まったロマコメ。
あり得ない出来事がめまぐるしく起きて会話が途切れない。スクリューボール・コメディと呼ばれた古典を思わせる。

『常識にとらわれない登場人物、テンポのよい洒落た会話、つぎつぎに事件が起きる波乱にとんだ物語などを主な特徴とする。「スクリューボール」は当時のクリケットや野球の用語で「スピンがかかりどこでオチるか予測がつかないボール」を指し、転じて突飛な行動をとる登場人物が出てくる映画をこう呼ぶようになった。』
(ウィキペディア、スクリューボール・コメディより)

そのトントン拍子な丁々発止な陽性の椿事群が、万人に好かれるトーンと見た目をまとっている。いやな人もいないし、いやなこともおこらない。ピンチになってもハッピーエンドになるのはわかっているから平穏な気分で乗っていられる、緩やかな屈曲と高低差のジェットコースター。
容姿端麗な人々が繰り広げるサブスク映画時代の需要をそなえたアマゾンオリジナル映画だった。
imdb5.9、RottenTomatoes83%と88%。

往年の恋愛映画に対する考察とじっさいに往年の恋愛映画に出ていたアンディマクダウェルやヘザーグラハムがセルフパロディの成分を添えるが見どころはフレッシュな顔ぶれ。
個人的によかったのは定番キャラクター“いったんはケンカ別れするソウルメイト”役のMallori Johnsonと同じく定番キャラクターの“おしゃまな妹”役Olive Abercrombie。
出演者は全員が愛すべき内面と外面を持っていてわたし/あなたの気分を害さない。

ルッキズムという近年あらわれて浸透しつつある言葉がある。ところがこの世に面食いじゃない人間はひとりもいない。つまりルッキズムとは全人類が持っていて、たんに面食いを公に出すか出さないかという“常識”に他ならない。とうぜん出してはいけない。醜/嫌はもちろん現実では美しさ好ましさも言うべきじゃない。

全人類が持っているルッキズムに対応するためにルッキズムに腐心した映画がつくられるのは当たり前だ。ルッキズムに腐心した映画が好まれるのも当たり前だ。
好ましいと思わない顔が総出演の映像作品、見たいと思いますか?

ルッキズムなどという言葉が突如浸透しはじめたのは差別のないところに差別を生みだそうとする左翼メディアの謀略に他ならないが、映画に容姿端麗な人を出演させるのは映像作品の基本前提であるという話。

ちなみに(スクリューボール・コメディの)ウィキによるとスクリューボール・コメディとは1930年代初頭から1940年代にかけてつくられたコメディに冠された呼称で代表例はフランクキャプラの或る夜の出来事(1934)。
呼称はなくなっても男が女に出会い(or女が男に出会い)あれやこれやの危機を克服してめでたく結ばれるという定石がこんにちまで連綿とつむがれていることがわかる。
(個人的な視聴範囲内だが)近年おすすめなのはNetflixのLet it Snow(クリスマスに降る雪は、2019)。軽くて愛らしくてスクリューボールなロマコメでlgbt値とNoel値も付いて音楽もいいから毎クリスマス繰り返し見られるよ。