津次郎

映画の感想+ブログ

飛び立つ時を待っていた鳥 ブラックバード 家族が家族であるうちに (2019年製作の映画)

ブラックバード 家族が家族であるうちに

3.2

ビートルズですきな曲は?といったら、きっと、いくつか挙げても、あとになってそういえばあれ挙げてなかった──という感じになる気がする。
映画のベストも、あとになってからそういえばあれ挙げてなかった──という感じになりそうなのがいやだな。きっとみなさんだってそうだろう。

それでもいくつか挙げてみることにするがHey Bulldog、A Day in the Life、I'm Only Sleeping、In my Life、When I'm Sixty-Four、Happiness Is a Warm Gun、She Came in Through the Bathroom WindowからのGolden Slumbersなどなど、がすきだ。
でも、おそらく口で言う時には、そういうこまっしゃくれたこと(玄人っぽい気取ったセレクト)を言わないでたんじゅんにブラックバードと言うだろう。

監督Roger Michellがインタビューでタイトルについて語っている。

『ある時点の脚本の中で、登場人物の何人かがポールマッカートニーの曲「ブラックバード」を歌うシーンがあり、そのときパッとひらめいて、映画をブラックバードと名付けることにした。その後、さまざまな理由でそのシーンは消えたが、タイトルは強固に映画にしがみついていた。』

おそらく(ブラックバードの)you were only waiting for this moment to ariseというフレーズが映画の内容にしっくりきたのだろう。
リリー(サランドン)は進行型の奇病をわずらい治療法や緩和治療法がなく悪化していくことが解っている。だから安楽死を決意してそれを家族らに知らせるというドラマだった。
すなわち死を悲嘆でなく「飛び立つ時を待っていた鳥」のように捉えようとする映画だった。

話がややズレるかもしれないが──。

先般(2024/07)とある体操選手が喫煙などを理由に五輪出場権を剥奪された。──ことを受けて、ひろゆきが喫煙者は増えたほうがいい、との持論を展開した。なぜなら喫煙をする者は年金受給へ至る前に癌になったり気管を患って死ぬから。結果的に国の負担が軽減される、というひろゆきらしい突き放した感じのロジックだった。

が、すぐに医療関係者の反論があった。喫煙者はたいがい入退院もしくは要介護状態を10年あるいは20年あるいはそれ以上存生した後に亡くなっていく。なんにせよピンコロで逝くわけではないから、喫煙者が増えると国の負担が減るなんてことはあり得ない。むしろ医療負担が著しく増大するだろう。──。

日本の高齢化社会を考えたとき(身も蓋もないいいかたをすると)高齢者はしんでいったほうがいいが、それは議論にすることができない。
人間社会では死が大きいので仕方がないが、しを望む者は、ただじぶんの運命(生き死に)をコントロールしたい──と言っているだけであって、世を儚んで(はかなんで)、あるいはじぶんの境遇を憂いてということではない。
たんにピンピンコロリで逝きたいと言っているだけだ。
超高齢化社会の日本では、たとえ病におかされていなくても、もういいや──と思った高齢者にしぬ権利を与える法律を制定していく、ということを本気で考える政治家や政党があってもいい。

リリーは悲嘆のなかで安楽死を望んだのではなく、誰かの世話になってチューブで液体養分を摂取することになる前に逝きたいと言っているのであり、それはごく自然な望みだろう。
ビレ・アウグストのサイレントハート(2014)のリメイクとのことだが、世話になる前に逝ける法律をつくる議論が超高齢化社会の日本ではじまってほしいと思っている。

主役は当初ダイアンキートンが抜擢されていたが降板してスーザンサランドンになったとのこと。
スーザンサランドンというひとはロートルな感覚でいうと大きい女優だった。目のことだが。
ルイマルがアメリカへ移住していくつか映画をつくった中にアトランティックシティ(1980)という映画があった。サランドンの役はいずれカードディーラーになるべく研鑽を積んでいる牡蠣バーの店員だった。じぶんの身体が生臭いような気がするので毎晩上半身裸になってレモンを塗る──シーンを覚えている。婀娜っぽい人だった。

役者揃いの映画でウィンスレットもサムニールもMia Wasikowskaもいるが、重いテーマのわりにはなんとなくあっさり。重いテーマだからあっさりで良かったのかもしれない。が、テーマよりミニマルなビーチハウスときれいな画のほうが印象に残った。
スタッフやキャストらはALSや筋萎縮性側索硬化症の人々に取材しているそうで、尊厳死についてなにがしかの考量となることを望んでつくられている意図はわかるが、尊厳死のことより世代間ファミリードラマとして見た。
imdb6.6、rottentomatoes64%(オーディエンスメーターなし)。

ちなみにRoger Michellはノッティングヒルの恋人(1999)の監督で、そのことばかり聞かれるからインタビュー嫌いなんだそうだ。そりゃあんなエポックな人気作つくったらしょうがないよね。
なおRoger Michell監督は2021年9月22日、65歳で亡くなった。死因は明らかにされていない。