津次郎

映画の感想+ブログ

アルジェントのとは別物 サスペリア (2018年製作の映画)

4.0
概ね40から上の人たちはサスペリアのテレビコマーシャルをおぼえているはずです。

「決してひとりでは見ないで下さい」

とても有名になったコピーです。むろん現在、ダリオアルジェントの映画を見ても、怖くはありません。独自のスタイル/美学はありますが、時代を感じさせる映画です。

胸騒ぎ~と君の名前~を見ていたので、陽性の人生賛歌を撮る映画監督だとばかり思っていました。そう思っていただけに、プロローグとタイトルのあと、ヒロインが入団する章から、異世界に迷い込んでしいまいます。つまり「誰の映画観ているんだっけ感」です。

ベルリンには未だ壁があり、いつも曇りか雨か雪です。テクニカルな長回しのシークエンスと不安をかき立てる弦楽。ショットやカットにはヒッチコックのような寓意もありました。
老齢の精神科医とヒロインとヒロインの母の記憶──前触れなく時間と場所が錯綜します。かなり複雑な編集をしていました。

予備知識が「君の名前の監督がダリオアルジェントをリメイクした」だけ、だったゆえに、連想していた世界観との違いに興奮したのです。そもそも冒頭クロエモレッツが出てきたところから「おや?」だったのですが、そこから「おや?」だらけになります。
とくにサイコキネシスのような術でダンサーの四肢がよじれるシーンから、言ってみれば──鑑賞姿勢が完全マジモードになっていました。マジモードになってみると、とくにマザーの部屋へ入ってからの物凄まじさは相当な負荷でした。

それはホドロフスキー+パゾリーニをアロノフスキーの美学で捉えたというような、ちょっと形容できない壮大+いびつな群舞です。加えて、割かれ/砕け/もぎれ/吹き飛ぶ肉体と、夥しい量の血。生生し過ぎて赤の色付けは必然でした。完全に圧倒され──私も長らく映画を観ておりますが正直たいへんな衝撃でした。

ただ思ったのですが、この映画を観ていちばん驚いたのはおそらくダリオアルジェントではないかという気がするのです。あのざっくりした山っ気のある、謂わばメルヘンが、史実的考察と得体の知れないカルト集団の肉付けをともなって、完全な別物になっていたと思います。
逆に言うと、アルジェントのサスペリアに私が読み取れない深淵があったのかもしれません。いずれにせよ素人的に観て、とうていサスペリアの翻案とは思えなかったのでした。

素人ついでにルカグァダニーノ監督についての考察ですが、個人的に感じたのは「アメリカの混入」です。ヨーロッパ映画がある種の「一本調子」を持つことを監督は知っていると思うのです。君の名前のアーミーハマーやこの映画のクロエモレッツは、時として潤い過ぎてしまうユーロ圏の絵面に、軽くて乾いたアクセントをもたらしている、ような気がしました。

個人的に、この映画に使われた「映画史を塗り替える」という宣伝文句は言い過ぎだとは思いません。かなりびっくりした映画でした。