津次郎

映画の感想+ブログ

人間模様 名古屋行き最終列車 第6弾 (2018年製作のドラマ)

名古屋行き最終列車2018 DVD BOX(中古 未使用品)

5.0

名古屋テレビ放送で2012年から毎年製作放送されているご当地ドラマ。
だいぶ前からVODの無料枠にありました。

終電にまつわる乗客や駅職員の人間模様。
名鉄(名古屋鉄道)が撮影提携しています。
どの話も楽しめましたが記憶に残っているのは「名古屋行き最終列車2018」(シーズン6)の第10話です。
ご覧になっていない方は読む前にご覧になることをお薦めします。

レギュラーとして出演している松井玲奈がラジオの企画として終電に乗っている人にインタビューをします。
第10話は高校教師高橋先生(渡辺いっけい)による部活動のエピソードでした。

先生は卓球部の顧問ですが卓球は不人気なので部員確保に苦慮しています。
説得の末入部してくれたのは結局ひとり、木下君(矢本悠馬)だけでした。が、廃部はまぬがれました。

木下君はたったひとりの卓球部員ですが運動神経はからっきしでした。
それでも先生はめげずに毎日いっしょうけんめい木下君を訓練指導しました。
木下君はなかなか上達しない運動音痴でしたがどんなに練習をしても弱音は吐きませんでした。
三年間、高橋先生と木下君は二人三脚でみっちり卓球をやりました。
成果はさいごの大会で優勝候補から一セットをとったことです。

一勝もしなかった卓球漬けの三年間でしたが木下君にとってはこの上なく充実した高校生活でした。

一方高橋先生としては木下君をひとりぼっちの部員にし卓球まみれの三年間を過ごさせたのに一勝もさせてやれなかったことに呵責の念がありました。

『わたしは雄介(木下君)になにかを与えられたのだろうか?休日さえも練習させて高校の三年間といういちばん青春を謳歌する時期を彼から奪ったのではないか?あいつは大人しいうえにやさしいから、わたしに黙って付き合ってくれたのかもしれない・・・』

ふたりの思いには行き違いがありました。

その高校では卒業のイベントとして学校へ行こうの未成年の主張のような屋上演説が恒例化しています。
そこに木下君が立ちました。

『子供のころからぼくには友達がいませんでした。貧乏だし母子家庭で一人っ子だし、いじめられてたから。だけど伝えたいんです。こんなぼくでも充実した高校生活をおくることができました。高橋先生が卓球部に誘ってくれたからです。~~ぼくはひとりぼっちじゃなくなりました。きびしくてやさしい父親と兄貴がいっぺんにできました。~~高橋先生、最高の三年間をありがとうございました。』

矢本悠馬のそぼくな感じと渡辺いっけいのさえない感じが第10話をおもいっきりエモーショナルにしていました。

この世でいちばん立派な人は芸能人やスポーツ選手や文化人やインフルエンサーやYouTuberやアーチストや喧嘩自慢の輩やSNSの中にいる見目の良いモデルやミーム、あるいは数多の著名な誰某──ではありません。

誰にも知られておらず誰にもほめられけれどまじめにこつこつ一生懸命に努力している無名の人がいちばんえらいに決まっているじゃありませんか。
すなわち三年間ひたすら卓球に打ち込んで卒業後は知多半島のえびせん工場につとめる木下君のような人や、決して素質があるとは言えないひとりの部員を誠心誠意育て上げる高橋先生のような人がこの世でいちばんえらいのです。

そういう本質をこの第10話は短いなかにもとらえていると思いました。まるで小粒なケンローチのように無名の者に寄り添う雰囲気に感動したのです。
職人型監督が長編化すればきっといい映画になると思います。