津次郎

映画の感想+ブログ

こわもて レプタイル -蜥蜴- (2023年製作の映画)

レプタイル -蜥蜴-

3.7

周期的にいい映画に巡り会わない時がある。
気分がふさいでいたり、アンテナを低くしていると、そんな時が長くつづく。
むろんいい映画がないわけではなく、ぜんぶ自分のせいなのだが、その谷底にいると、なにを見ても感興しない。
とはいえ周期はどこかで変わり目がくる。Reptileが谷底から掬いあげた。直訳を見たら爬虫類と出た。

Grant Singer監督の来歴を見たら、ほぼすべてMusic Video。はじめての(長編)映画らしいが、どっしりと据わったカメラでデヴィッドフィンチャーを見ているようだった。ちょっとユーモアもある。鹿殺しやロッジみたいにシルヴァーストーンを庶民使いしている監督はだいたいセンスがいい。空気感は玄人だった。

殺人事件と警察内幕を描き、事件が不動産関係者であることと主人公の家がリフォーム中なのを絡ませる。
登場人物はみな独特で、ストーリーを持っている。語り口も台本も撮影も編集や音楽も感心したのだが、わりに低評価だった。imdb6.9、rotten tomatoes43%と78%。新しい映画ゆえ母数が増えたらまだ下がりそうだ。consをあげるなら長さやわかりにくさだろうか。だけどとうてい初監督という風格じゃない。センスもいいし完成形だった。

顔付きには美醜のほかに強弱があるように思う。強面かそうでないかということだ。弱面という対義語があるわけじゃないが、なんぴとも侮る(あなどる)ことができない、ナメられない顔というというものがあり、たとえばテイラーシェリダンが書いたSicarioは強面のベニチオデルトロとジョッシュブローリンが話のシリアス値を青天井にしているわけである。

ただし強面とは“怖い顔”とイコールじゃない。大門未知子が遠藤憲一に言う「こわ~い」と映画俳優に冠される強面はちがう。年輪や味わいや、なんらかの辛酸によってあらわれ出てくる燻銀のようなものが強面を形成するのだろう。

ここでもベニチオデルトロが効いている。貫禄というか威厳というか、居るだけでもサスペンスフルになり、あの寝起きみたいなのに据わった目ざしで尋問されたら、なんでも自白しちまうだろう。

なおフランシスフィッシャーがタイタニックとおなじ意地悪っぽい母親役だった。ティンバーレイクはサイコパスっぽい悪役だがベニチオデルトロの強面に圧されて印象がうすかった。

前述のごとくトマトメーターが予測に反していて批評家の意見をひととおり見たが、統一感はあまりないものの、ざっくり言うと気取りすぎという感じだろうか。個人的にはよかった。後になってunderratedだったとか言われるやつじゃないかな。なんで爬虫類なのかは解らなかったけれど。