津次郎

映画の感想+ブログ

ああ無情 トリとロキタ (2022年製作の映画)

トリとロキタ Blu-ray [Blu-ray]

3.5

Xを見ると政治家や政府に罵詈雑言が飛び交っているが、さてじぶんをかえりみると食べ物や服や家がないわけじゃないし迫害されてもいない。とはいえ紛争地帯や途上国と比較しても仕方がない。飯時にいちいち飢えた難民のことを考えはしない。われわれは成熟した社会に生きていていまさら衣食住みたいなプリミティブなことを心配する必要はないが、それでも問題は山積みで人々は政府に怒っているし不満もある。

政府や政治家に対してしっかりと怒りたいとき、ダルデンヌ兄弟なんか見るべきじゃない。ダルデンヌ兄弟の映画の中で真剣に生きる人々はわたしの甘さのようなものを教えてくれる。ロゼッタやサンドラを忘れられず、じぶんの不満が些細なことに思えてしまう。そもそも映画に感化されるような弱っちい奴は政治なんかやらないだろうけど。w

ロキタとトリはほんものの姉弟じゃないがそれ以上に強く結ばれたソウルメイトといえる。ロキタはベルギーで就労ビザを取得しようとしているが認められない。働けないのに移民ブローカーやカメルーンに残してきた母兄弟の仕送りに対処しなけりゃならず、仕方なく大麻プランテーションの闇バイトをする。
ふたりに闇バイトをあっせんする男は表向きレストランで働いていてフォカッチャをくれるがしばしばロキタに性的接待を強いる。

トリは11歳、ロキタは16歳だが世界は過酷で誰も助けてくれない。行政に見放され、移民ブローカーは二人を監視し、カメルーンの家族も冷たい。生存したければ悪事か性搾取との対価だ。そんなトリにとってロキタだけが、ロキタにとってトリだけが癒やしになっている。という状況が淡々と描かれる。エモーショナルな表現はゼロ。お涙ちょうだい型演出の真逆──なのはいいが淡々過ぎる。結末もダルデンヌ兄弟の映画のなかでも一二をあらそえるくらいに救いがなかった。

imdb7.1、RottenTomatoes88%と71%。
カンヌでパルムドールは逃したが創立75周年記念特別賞という栄誉賞をとった。ダルデンヌ兄弟のキャリアにたいする功労賞だったのだろう。

余談だが、現実には移民に情は禁物というか所謂“かわいそうな移民”と国家の移民問題というものは区別して考えたい。情にほだされていたらどこも川口みたいになっちまうぞ。