津次郎

映画の感想+ブログ

謂わば完全主義者のホラー 来る (2018年製作の映画)


3.9
冒頭からの秀樹(妻夫木聡)のはじけぶりが「おいおい、落ち着けよ」と言いたくなる危うさに満ちている。言うなれば、棚にいっぱい、精巧なガラス細工が並んでいる店で、大仰な動作をしている人のような危険度がある。
無理な背伸び感もある。それらが相乗して、間が悪い。どこでも、いつでも、だれに対しても、躁的で、やり過ぎな男として描かれる。
取り巻きの友人らは、皮相的で、思いやりがないが、秀樹自身も徐々にメッキが剥がれてくる。
すなわち、本当の人物像を、回想によって明らかにしてゆく編集が、観る者を間断しながら騙す仕掛けになっている。
幼少の記憶から現在まで、時間軸がぐるぐると入れ替わり、その目まぐるしさが面白味でもあった。

挿入されるイメージや次々に入れ替わるシークエンスは華麗で、効果音は禍々しい。人々は怪しく、煩悩を背負い、本心を隠している。それらは、他の中島哲也作品がそうであったように、エキセントリックで魅力的だった。

しかし、高位なシャーマンである琴子(松たか子)が大仰な神楽舞台をつくってお祓いをするにもかかわらず、けっこう他愛ない人間感情によってそれが失敗するのは、拍子抜けであった。
また、目まぐるしく変遷してはいくものの、終局では冗長感があった。
ささやかな倫理に落ちるのではなく、邪鬼が人間を負かすか、もしくは琴子が勝つような結末のほうがすっきりしたと思う。

ただし、全体像として児童虐待のカリカチュアにはなっている。
大人たちの勝手が、ガゴゼンを呼び込んで、子殺しへ至る──異界譚が、現代社会を浮き彫りにしているのは見事というほかない。
また、にっこりしながら盛り塩を踏み潰す香奈=黒木華の演技力には慄然となった。

あいかわらず完全主義が感じられる映画でした。個人的な認識ですが、日本で今、実力をともなう映画監督とは、李相日、原田眞人、中村義洋、是枝裕和そして中島哲也だと思います。