津次郎

映画の感想+ブログ

原作の面白さをあますことなく伝える ゴールデンスランバー (2009年製作の映画)

ゴールデンスランバー(字幕版)

5.0
渋川清彦は、この映画やフィッシュストーリーで見せた演技でブレイクした、はずである。

その持ち味が理解されていない──と思う。

キャスティングされると、まず間違いなく、だらしない人間、ダメ男、チンピラとして使われる。

いったいこの紋切り型の発想はなんなのか、というくらい、一本調子のキャスティングを被る(こうむる)。

クレジットされていると、ほぼチンピラ役なのである。

この国の演出家は何を見ているんだろう。

青柳(堺雅人)に会ったときの岩崎先輩(渋川清彦)のセリフは「どうせおまえじゃねえんだろ」だった。
「どうせおまえじゃねえんだろ、ちげえだろ」
その無雑な性根に青柳はおもわず涙する。

有名人の青柳をだしにしたらキャバ嬢とヤレた。それを恩義にするほど小市民で、竹を割ったように単純な善人が渋川清彦の持ち味だった。
ロックだなが口癖で、僅かな登場回数と時間なのに、すがすがしい好感を残した。

国中を敵に回そうと、あなたを知っている人は、あなたを知っている、のである。これは伊坂幸太郎がもっとも言いたかったポイントだった。──と思う。中村義洋監督はそれをしっかり酌んで、爽やかさを渋川清彦に充てたわけである。ところが、他の演出家ときたら、渋川清彦をぜんぜん生かせていない。

余談だが、演出家としての素養が不確定な作家を、きょうびこの国では鬼才と呼ぶ。
反して(ざっくりで網羅性はないが)是枝裕和、中島哲也、李相日、原田眞人といった監督たちは、演出力をそなえた堅実な映画監督──と認識している。
なかでも中村義洋監督は、手堅さが秀でている。

演出力の裏付けがある映画を、日本映画では滅多に見なくなったのに相反して、国内マーケティングでは鬼才が、まるで天才のように、もてはやされている。

フィッシュストーリーやアヒルと鴨やこれのように、とうてい映画化できないはずの伊坂作品を、いったいだれが映画化できるというのだろうか。

優劣は主観である。
が、せめて凡百の鬼才とは区別してほしい。と思う。